夢現な眠り
□12話
2ページ/4ページ
No side
風が林の中を吹き抜ける中、とある屋敷で女の子の甲高い叫びが木霊する。
「エ、エレンちゃぁぁん!!?」
ご機嫌ナナメなシュウに首根っこを掴まれ、頭にたんこぶを生やしたアオイがえへへと笑う。
「殴られちゃったぁ〜」
たんこぶの経緯はというと。
クリームをシュウの口いっぱい詰め込ませたり、帰りたくないとアオイは駄々をこねた。無言でキレた彼は、ついにげんこつを落としたのだ。
だからシュウのご機嫌が著しく低下してるのである。
「連れ帰った。俺は寝る…………」
胸を押さえ、よろよろとシュウはソファに倒れた。大量摂取させられたケーキによる胸焼けが原因だと思われる。
「──じゃあずっと街でパンやお菓子を食べてたってこと?」
たんこぶをさするアオイから事情を聞いたユイは、ため息を吐く。その姿はまるでお姉さんのようだ。
「ここって、夜中でもお店やってるんだね! ビックリしちゃったよ〜」
間延びした声に反省の色は見受けられないが、無事なだけ良しとしよう。
後から他の人たち(特にレイジ)から、なんて言われるかは分からないけれど。
もう目の前のユイに興味がなくなったのか、エレンの自室へ向かおうと立ち上がった。
「おへやに行こ〜うっ! こんな屋敷のお風呂に入ってみたかったんだよねぇ〜♪」
鼻歌を交えながらドアに手を掛けるが、ユイが「ちょっと待って…!」という声で動きがピタリと止まる。
「どーしたの〜? えっと……」
(──この子の名前忘れちゃったぁぁ!)
目の前にいる女の子の名前が咄嗟に出てこないことに焦り、アオイはわたわたと冷や汗を流す。
「エレンちゃん今日大丈夫? なんか、言動が子供っぽいっていうか……その、熱とか……」
「体調なら全然悪くないからへーきだよ〜?」
さすがゲームのヒロインだ。いつもと違うエレンの様子に目敏く気づいていた。
こういうことに鋭いのもヒロインあるあるだろう。
"内側"から面倒は起こすなと、指示を送っているかのように心の奥が大きな脈を打っている。
「そーいえばだけど、そろそろごはんの時間かなぁ? 何作ってるんだろ! お料理作る人も、人数分用意するのってたいへんだよね〜」
「え? あっ、いけない! レイジさんに手伝い頼まれてたんだった…! は、早く行かないと」
思い出したように、ユイは脱兎のごとくキッチンのある部屋へ駆け出していった。