夢現な眠り

□12話
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No side











風が林の中を吹き抜ける中、とある屋敷で女の子の甲高い叫びが木霊する。


「エ、エレンちゃぁぁん!!?」

ご機嫌ナナメなシュウに首根っこを掴まれ、頭にたんこぶを生やしたアオイがえへへと笑う。

「殴られちゃったぁ〜」


たんこぶの経緯はというと。

クリームをシュウの口いっぱい詰め込ませたり、帰りたくないとアオイは駄々をこねた。無言でキレた彼は、ついにげんこつを落としたのだ。

だからシュウのご機嫌が著しく低下してるのである。


「連れ帰った。俺は寝る…………」

胸を押さえ、よろよろとシュウはソファに倒れた。大量摂取させられたケーキによる胸焼けが原因だと思われる。



「──じゃあずっと街でパンやお菓子を食べてたってこと?」

たんこぶをさするアオイから事情を聞いたユイは、ため息を吐く。その姿はまるでお姉さんのようだ。

「ここって、夜中でもお店やってるんだね! ビックリしちゃったよ〜」

間延びした声に反省の色は見受けられないが、無事なだけ良しとしよう。
後から他の人たち(特にレイジ)から、なんて言われるかは分からないけれど。


もう目の前のユイに興味がなくなったのか、エレンの自室へ向かおうと立ち上がった。

「おへやに行こ〜うっ! こんな屋敷のお風呂に入ってみたかったんだよねぇ〜♪」


鼻歌を交えながらドアに手を掛けるが、ユイが「ちょっと待って…!」という声で動きがピタリと止まる。

「どーしたの〜? えっと……」

(──この子の名前忘れちゃったぁぁ!)



目の前にいる女の子の名前が咄嗟に出てこないことに焦り、アオイはわたわたと冷や汗を流す。

「エレンちゃん今日大丈夫? なんか、言動が子供っぽいっていうか……その、熱とか……」
「体調なら全然悪くないからへーきだよ〜?」


さすがゲームのヒロインだ。いつもと違うエレンの様子に目敏く気づいていた。

こういうことに鋭いのもヒロインあるあるだろう。



"内側"から面倒は起こすなと、指示を送っているかのように心の奥が大きな脈を打っている。


「そーいえばだけど、そろそろごはんの時間かなぁ? 何作ってるんだろ! お料理作る人も、人数分用意するのってたいへんだよね〜」
「え? あっ、いけない! レイジさんに手伝い頼まれてたんだった…! は、早く行かないと」


思い出したように、ユイは脱兎のごとくキッチンのある部屋へ駆け出していった。
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