夢現な眠り

□8話
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思考回路がほんの一瞬、機能を停止した。バクバクと警告する心臓を、私は慌てて手で抑える。


"カヤちゃん"?
何故こいつはその名を知っているんだ。


──もしかして、あの時に?
そうだ、忘れてた。最初、目覚めた私がいつの間にか拷問部屋にいたのは、あいつ等も接触したから。
そのときに交流しました〜、なんて言われてもおかしくはない。

しかもよりによってコイツに存在を知られたってことは、後が面倒だ。

「あはっ! ビックリしてるー」
鼻を人差し指でぽんっと触られた。なに呑気に笑ってんじゃコラ。
私にとっては一大事なことだぞ。

「ボクは知ってるよ。キミのヒ・ミ・ツ」


ひぃぃぃぃっ!

何気に服のボタン外すの止めてくれないかな!!?

「キミのナカにある全てが知りたいな」

剥き出しの胸元に、ライトの口が近付く。何を言っても卑猥に聞こえるのは私だけじゃないと信じたい。

途端に生理的嫌悪が背筋を走った。
くるな、くるな…!

血を吸う人を間違っているぞ。
私はモブという立ち位置なんだから、そんなことされても困るしヤダ。だからと言って、ユイちゃんを差し出すわけにもいかない。

「っ……すごい嫌がり方」
せめてもの抵抗に、足をライトの胸に当て、全力で押し返す。コイツ重いし、力強くない?



「──あのことバラされたくなかったら、大人しくしてろよ」
「っ!!」

初めて聞くライトの低い声。不覚にもビビってしまった。間近にあるライトの目は、いつもとは真逆に鋭く見えた。

「冗談ですよねー?」
「じゃあ本気かどうか試してみる?」

遠慮します。

シュウに"対抗し続ける"と宣戦布告したのに、このままライトへの恐怖に流されては、私の負けに終わってしまう。

それは悔しい!


「ライト、く…ん」
押し返すのに力を使いすぎてしまい、空気が上手く吸えない。すぐ息が上がるとか、運動不足かもね。

「血は、誰にもあげないって決めてるから。だから脅しても無駄だよ」
「別に無理やりにでも吸えるけど?」

ライトの言うとおり、力の差は歴然としている。今再び実感したばかりだ。

ヴァンパイアからみると、私みたいな人間は無力に等しいのだ。それは知ってるよ! 知ってるけど!


「私のコレは、いつかきっと感づかれると思うし。だったら先にライトくんがみんなにバラそうが、別に構わない」

私は本心を言ったつもりだ。私の秘密なんて、この際どうにでもなれ。

するとライトの心境に何らかの変化があったのか、私の上から来る圧力が消えた。 

 
「……あー、萎えた。もっと泣き叫んで抵抗しないの? 興醒め〜」

いつの間にか、ベッドではなく机の上に座っているライト。とりあえずは、どいてくれて良かった。

「声枯れるの嫌じゃん」
「そんな理由?」

深くため息を吐かれ、目を見張る時にはもう彼の姿はどこにもいなかった。


はぁ……。これでライトと対峙するの二回目なんですけど。

こんなんで無事に元の世界へ帰れるのかな。家にすら帰れてないのに。
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