夢現な眠り
□1話
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機敏に動く私の体は走る。
走るんだ、エレン。
指示通りに廊下の突き当たりを左に曲がると、移動中の生徒がたくさん行き交っており、いろんな音でガヤガヤとしている。
木を隠すなら森の中戦法! ……ってことかな?
アヤトの移動能力でも、この中からじゃ覗き犯を見つけるのは絶対に出来ないであろう。
あ、いや、覗きじゃないよ!? 偶然ですから! 公共の場であんな事してたアヤトが悪いんだから。
私は肩の息を整え、即座に生徒Aに扮する。
案の定、アヤトの声が後ろから聞こえてきたが無視無視。振り返って反応しちゃダメよ、私。
少し焦っているアヤトの表情が、私の横を通りすがった時に見えた。
作戦成功……かなっ。
*
学校が終わった私は自宅に帰り、ベッドに沈み込む。その拍子にふわりと薔薇の匂いが鼻をくすぐった。
あ、今日使った香水の香りが布団に移っちゃったな。でもいい匂い。
にしても……。
家庭科室前での、あの不思議な声。
さっきは無我夢中で冷静に受け止めてたけど、これで確信した。
絶対に私の"中"の仕業だ。だって幻聴だなんてことはありえない。しっかりと聞いた。
とりあえず意識を集中させて通信を試みるが、当然、失敗に終わる。
何この不思議現象! 私もおかしくなったのか。人格と会話なんて無理に決まってるでしょ。
まあ、危険な時に助けてもらってたし、深く考えなくて良いのかな?
考えるのを止めにした私は、目を瞑りながら微睡みの海へ沈んでく。
そうそう、この感覚。自分が自分なのかが解らなくなった。
とっても……
心地が良い。