夢現な目覚め
□レイジの料理講座〜玉子焼き戦争編〜
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「レイジさん…! 一生のお願いっ!! 私に料理を教えてくださいー!」
この騒動は私の一言から始まった。
「百面ちゃーん。何作ってるの? ホットケーキ?」
「ううん。玉子焼きだよ!!」
私は今、ボウルを抱えて卵を溶いている最中だ。
冷やかしに来ただけなのか「頑張ってね〜」とだけ言い残して去ってしまった。おいコラ。乙女が手作りしてるってのに興味もないのかよ。
「…あ、そうだ!! 良いこと思いついちゃった!!」
よし、これで更に美味しくなること間違いなし!
私は自信満々に三つ子へ、出来たてほやほやの玉子焼きを披露した。
「完成〜!! エレン特製絶品玉子焼きーっ」
「なんだようっせェな。……って…なんだ、これ…」
「おっ、百面ちゃんおか、え、り……」
「──なんですか、このマズそうな色をした物体は!!!」
えっ、カナトひどいな。結構上手くできたのに。
「…百面ちゃん。なんで玉子焼きがこんなに真っ赤なのかな? ずっと見てると目が痛くなる…」
「すこぉーしピリ辛にしたくて、唐辛子をちょこっと入れたのだよ!」
「明らかに分量間違えてるだろ」
えー? そうかなー??
赤くてキュートな感じに仕上がってるじゃん。
これのどこがマズそうなの?
「こっちは黒い……焦げカスですか?」
「何言ってるの!? 卵だよ、た・ま・ご!」
「あ、うん……へぇ……」
じっくり慎重に焼いたから美味しいはず! …でもライトとカナトは遠い目をして窓の外を見つめている。
吸血鬼のくせに具合悪いのかな?
「普通の卵がそんな色するんなんて有り得ねーよ……」
「そんなの見た目だけだよー。食べれば美味しいって〜!」
「絶対ェ食わない」
「即答!?」
自信作なのに。
言い返そうと思い口を開いたとき、思わぬ人物に遮られた。
「…お前らなにしてんだ?」
こ、この声は…!!!
「スバルくぅぅーーーん!!!」
「うおっ!! なんだよ」
「皆がいじめるーっ!」
「はぁ? つか何持ってんだ?」
「それはね──」
食べ物だと理解したスバルは、私の返答を待たずに、玉子焼きを一つ口に含んだ。
「──ぅぐっ!!!!!?」
噛んだ途端にスバルは目を限界まで見開き、口を押さえる。
よく見れば冷や汗がだらだらと…。
…って、
「だ、大丈夫!?」
背中をさするが、スバルはむせながらも、玉子焼きを呑み込んだ。
後ろではアヤトが爆笑している。
ライトとカナトもニヤニヤとスバルを見守っていた。
おい、弟だろ。心配してやれや。
「──辛ェ!!! なんだよコレ!!? しかも尋常じゃないくらい、甘いししょっぱい…。 ……うっ」
スバルは刺激される味覚を我慢するように壁をボコボコ殴っている。
そして、数秒後意識がブラックアウトしたらしい。
ヴァンパイアをも唸らせる玉子焼き…。ある意味凄いなー、私!
自分でも一口ッ。
「……かっ…ら!!!! 」
口に含んだはいいけど、予想外以上の辛味に私もうずくまり悶絶する。スバルがやったように床をパシパシ叩いて、気を紛らわした。
「やっぱ味見もしてねーのか…」
「本能って役に立つんだ」
「タルトは一応上手く出来てたんですけどね」
呆れたようなアヤトとカナトの声。ライトは感心したようにふむふむと唸る。
あ、耐えられん。
スバル、一緒に眠ろう。
「百面ちゃんもスバルくんも倒れちゃったよ」
「まるで屍ですね」
「安心しろ、骨は拾ってやる」
意識がブラックアウトして数十分。
段々と覚醒してきた。
うっ、まだ舌が痛い…。
「エレンちゃん大丈夫!? スバルくんと倒れたって聞いて──」
レイジと買い物に行ってたはずのユイちゃんが、駆けつけてきてくれた。
帰ってきたのか。ということはレイジもいるわけで……。
「私は決めたよ…」
「え?」
「レイジさん呼んできて!!」
そして、巻頭に戻るわけである。