夢現な目覚め
□あの時の舞台裏
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──これは、私が人生初のお菓子づくりをしたときの舞台裏。
目の前に鎮座するパックに入っている生クリームと、てらてらと輝く銀のボウルを見比べ、これからのことを考えた。
生クリームって、液体なのに、これをどうやってクリーム状にするの?
携帯で調べようと思い、スマホを取り出したら充電切れと表示され、たちまちブラックアウト。
…おぅ………。
ボウルに移して空気にさらして、放置すれば良いのかな? 発酵みたいな。
「……」
「……」
無言。
そして三十秒が経った。
「……なに生クリーム見つめてぼーっとしてるんですか」
「え…!? サラサラをふわふわにするのが分からなくて…!! 放置したら自然になるのかなーと」
そう答えたら、カナトが眉間に皺を寄せ、ため息を吐く。なによ、なにか間違ったこと言った?
「泡立て器で混ぜるんですよ…。そんなことも分からないんですか!?」
「あ、なるほど」
泡立て器でぐるぐる…。
ぐるぐる…。
ぐるぐる…。
ぐるぐる…。
「腕、疲れるっ!」
「……そのために電動があるんでしょう」
手渡されたのは、底に二本の棒がくっ付いたやつ。
へー、これ電動なんだ。
液体に棒を浸してスイッチON!
「おおおおお!!!」
高速で棒が回って、サラサラだったのが次第にふわふわになってくる。
周りに白い液体が飛び散ってるけど、ここはご愛嬌ってやつだ。
家電って素晴らしい…!
やったよ、初めて生クリーム作れたよ!感動だよっ。
次はリンゴ…そう、リンゴを炒めよう。
フライパンでバターを溶かして…っと!
一口サイズに切ったリンゴを、とうにゅーう!
──したはいいけど、どうすんのこれ。
何分焼けばいいのかな?
ジュー。
「……」
ジュー。
「……」
ジュー。
「……」
「焦げますよ」
「うそ!?」
ひっくり返して……またもや放置。
ジュー。
「……」
ジュー。
「……」
「……あなたは放っておくことしか脳がないんですか! 見ててイライラします」
「ご、ごめんなさいっ」
いや、そんなこといわれても…うん。
お菓子つくるの初めてだからなぁ。
焼き色が目立ってはいるけど、一応リンゴも完成。ぱちぱち。
あとは、生クリームをタルトの底にたくさん入れて〜、チョコチップ振りかけて〜、リンゴを飾って〜、簡単タルトが完成!
最後までやり遂げたよ…!
何故かイライラさせちゃったみたいだけど、喜んでくれるかな…。
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「私にとって料理とは、インスタントです」