無事にこっそりしょこらぁとを買うことが出来て、あとは家に帰り総司さんに渡すだけ…驚いてくれるかな、喜んでくれるかな…とワクワクした気持ちを隠して総司さんのいるお店へ戻る。

「…千鶴。外の空気を吸ってきたんだよね?何でそんなに息があがってるの?何処かに走って行ってたの?」

「そ…そんな事ないですよ!」

「ふーん…」

何だか気まずい雰囲気のまま、お茶を飲み終えると帰ることになった。
帰りの道中はずっと無言で…
ここで暮らし始めてこんなに気まずい雰囲気になるのは初めてかもしれない。機嫌の悪い総司さんに何を話しかけたらいいのかわからずにただ無言でついていくことしか出来なかった。

家に着いてもずっと重い空気にしょこらぁとを渡す時機を完全に見失ってしまった。

大切な人に贈り物をしたかっただけなのに。

少し驚かせて喜ばせたかっただけなのに。

どうしてそんな簡単なことすらうまく出来ないんだろう。


重たい気持ちで夕餉の準備に取り掛かるけど、いつもみたいに動けなくて簡単な作業も失敗ばかりしてしまう。

「痛っ…」

包丁でうっかり指を少し切ってしまった。傷はすぐに治ったけどズキズキした痛みが心の中で連鎖してしまい泣けてきてしまった。



「…千鶴。泣いてるの?」

ふと、後ろから総司さんの声がした。

「…泣いてません」

後ろを振り返らずに答えると、涙を必死に止めようとする。お願い、止まってよ…私の情けない涙腺。

「…僕は千鶴の言う言葉を信じるよ」

「総司さん」

「例え君が泣いていても“泣いてない”というならそう信じる。だけど…君の涙を拭ってあげられない自分が不甲斐なくて情けなくなるよ」

「…そんな事!」

総司さんが自分を不甲斐なく思ったりする必要なんて何もないのに。
思わず泣いていた事も忘れ総司さんの方を向くとそのまま総司さんの腕の中に閉じ込められるように抱き締められた。

「僕なんかじゃ頼りなくて何も相談できない?こっそり菓子店の主人に話をしに行くくらい僕は千鶴の役に立たないのかな」

総司さんは私がついた嘘を全部知っていたんだ。それでも私を責める事なく自分を責めてしまっていて…
総司さんにこんな苦しい顔をして欲しかった訳じゃない。
私はなんてことを…

「ごめんなさい!総司さん…実は…」

私は大切な人に贈り物をしたかった事、こっそりしょこらぁとを買いに行き驚かせたかった事などを全て打ち明けた。

「…なんだ。そうだったの」

「総司さん。受け取って下さいますか?」

差し出したしょこらぁとを総司さんは勿論と受け取ってくれた。

「じゃあ、これは僕から…」

「えっ…」

総司さんから手渡されたのは可愛らしい櫛だった。

「千鶴が店を出て行ったあと、あの店で“外国では如月に大切な人に贈り物をする”って話が聞こえてきてね…千鶴が店に戻ってくる前に急いで買ったんだ」

「あ…ありがとうございます!大事にしますね」

「うん。でも千鶴が一番大事にするのは櫛じゃなくて僕にしてね?」

「と…当然ですっ!」


少し怒ったように答えると、総司さんは楽しそうに笑った。

「ごめんごめん。そうだ、今からお茶いれて…しょこらぁと一緒に食べようよ」

「これは滋養のある貴重な…」

「だからこそ千鶴も食べて、僕とずっと一緒に元気でいなくっちゃいけないでしょ?ねっ?」

「はい!」


お茶を準備して、初めて食べたしょこらぁとは…

「甘くて美味しいですねっ!」


不思議な見た目からは想像もつかない優しい甘みで、ほんわりとした幸せな気持ちになった。


「今まで食べてきた甘味の中で私、一番好きかもしれませんっ!」

「千鶴、よっぽど気に入ったんだね。僕もしょこらぁと凄く気に入ったよ。だけど僕は今まで食べてきた甘味の中で…二番目かもしれないな」

「そうですか。総司さんの一番好きな甘味って何なんですか?」

「ん?気になる?」

「そりゃあ気になりますよ!」

「教えてあげても良いけど…教えても千鶴は食べられないもんなぁ〜。ちなみにこの世界でそれを食べられるのは僕だけなんだよ」

「ま…益々気になります!」

総司さんしか味わえない一番の甘味。それって一体何なのだろう…?!

総司さんの答えをワクワクしながら待っていたら、不意に腕を掴まれ総司さんの方へ体が倒れてしまう。

「僕が一番好きな甘味はこれだよ」

目の前でそう言って総司さんは私の唇をペロリと舐めて笑った。





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