江戸や京に住んでいた時とは違い、この地は買い物に行く事すら結構な大仕事になるし、冬の寒さは体を芯から冷やしてしまいそうな程厳しい。
だけど、空気や水は澄んでいて体が浄化されていくような感覚を日々覚える。
朝、目を覚まし。昼、家や畑の仕事をしたり。夜、眠る。
当たり前のような普通の人間の暮らし方ができる幸せを毎日噛みしめる。
「千鶴、おはよう」
隣には愛しい大切な人。朝、共に目覚めて。昼、共に働いて。夜、寄り添いあって眠る。
決して裕福でもないし、不自由がない暮らしだとは言えないけれど、この地での暮らしは私にとって幸せと表現する以外何もない。
「…そう言えば」
ふと、思い出したのは京にいた頃聞いた話だった。
「諸外国では如月のある日に大切な人に贈り物をするそうよ」
確かお千ちゃんはそんな話を教えてくれた。あの時は“千鶴ちゃん、贈りたい人居ないの?”と訊かれ慌てて“居ないよ”と答えたっけ…
あの頃の私も今の私も大切な人と言われて思い浮かぶのは一人しかいない。
あの頃の私は“大切な人に贈り物”なんて大胆な行動出来なかったけど今の私なら少し勇気を出せば出来る…そんな気がする。
折角ならばこっそり総司さんの好きな物を用意して驚かせて、喜ばせたい。
「やっぱり金平糖かな…」
買い出しに村まで出掛けた時にお菓子を売っているお店の前で足を止めて考える。
「もうすぐ珍しい西洋の菓子が手に入る予定なんだよ」
「西洋のお菓子ですか?」
「あぁ。なんでも、しょこらぁとって言う滋養もある有難い菓子を貿易を営んでいる友人が特別に少し譲ってくれる予定でね…」
「そ…それ、少し売っていただけませんか?!」
「まぁ少しなら…だけど仕入れは三日後くらいになる筈だよ」
「では三日後また来ます!」
お菓子を売っている店の主人の話に気づけば飛び付いていた。滋養のある美味しいお菓子…ぜひ総司さんに食べてもらいたい。
こっそり用意したいから三日後に一人で買い出しに行く為の怪しまれない理由を考えなくちゃ…
なんて考えながら買ったお菓子の包みを持って歩いていると
「千鶴、お待たせ」
「総司さん。ありがとうございます」
米や味噌など重い物を買い揃えてくれた総司さんと合流した。暗くならないうちに雪村の地まで帰る。
「千鶴、何だか嬉しそうだね?何かあったの?」
不思議そうに訊ねてくる総司さんに何でもありませんよ、と答える。ちゃんとバレないように誤魔化さなくちゃ…しょこらぁと、こっそり準備して驚かせて…喜んでくれる総司さんの顔が見たいから。
「…ふ〜ん」
怪訝そうな顔をしているけど総司さんはそれ以上何も言わず“そこ、足元に気を付けて”なんて言いながら前を向いて歩いているので、この話題はうまく誤魔化せたんだと思った。
まさか、菓子店で店の主人と話をしていた光景を遠くから見ていたなんて思いもしなかった。
三日経ち、いよいよ例のお菓子を買いに行く日がやって来たけれど…
一人で買い出しに行くことに不自然にならない理由を考え付く事は出来なかった。
「買い忘れがあるなら一緒に行けば良いでしょ?一人で行く必要ないよね?」
「…はい」
結局、二人で再び買い物に出掛けることになった。うまく隙を作ってこっそり買いに行けるかな…そうしなくっちゃ。
「何を買い忘れたの?」
「えっと…あ、あの、乾物を少々…あとお茶の葉も…」
「ふーん」
間違っても菓子店の事を言うわけにはいかない。何軒か買い物をしたあと休憩に茶屋に入った。お茶と甘味の注文を済ませて待っている時間…この時間を逃せば一人で菓子店にこっそりしょこらぁとを買いに行けない!そう思ったのでスッと立ち上がる。
「どうしたの千鶴」
「あ、あの…ちょっと外の空気を吸ってきます…注文が届くまでには戻りますっ!」
「ち…千鶴…!」
席を外す理由を慌てて考えて、店を急いで飛び出した。早く菓子店でしょこらぁとを買って、その事がバレないように店の外で深呼吸してたフリして戻らなきゃ。
「ごめんください…!」
「あぁ。やっと来たね。これがしょこらぁとだよ」
「ありがとうございます…!」
店の主人に代金を支払い何度も何度もお辞儀をして総司さんのいる店へ戻る…
●さて、突然ですが、ここで問題です
(`・ω・´)
千鶴の様子が少しおかしいと先日から気になっていた沖田さん。彼は菓子店の主人と千鶴が先日仲良さげに喋っている様子を実は見ていました。
何かを隠している様子の千鶴が気になりながら、やたらと一人で買い物に行きたがる千鶴を言いくるめて再び買い物に来ましたが、挙動不審な彼の嫁は白々しい言い訳をして自分の元を離れていきました。
沖田さんは勿論千鶴がどこに向かったのかそっと確認しました。やはり自分には知られないようにこっそり菓子店に向かい主人に何度も頭を下げている様子の嫁の姿を見てしまいました。
前置きが長くなりましたが、ここで問題です。
この後、沖田さんはどうなったでしょうか?
ビターなしょこらぁともビックリ、黒沖田に変身。嫁がえらい目に遭う。
ミルクなしょこらぁともうっとり、白沖田はピュアな心で嫁を信じる。
どちらかと思う方のお話にお進みください。
なお、申し訳ありませんが黒沖田はつきです。つきの話はfirst(必読)ページにある閲覧条件、それに満たない方の閲覧はご遠慮下さい。
黒沖田ページのパスワードは【kuro】です。当サイト全体に言えることですが、過度な期待は後々ガッカリするだけなのでお持ちにならない方がいいです。マジで。
黒沖田/白沖田