カルディア学園

□セシル、非日常へ
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学園近くの川原。

時にはヤンキーの決闘場ともなるこの場所に二人の少女は存在した。


「フフ……」


セシルは自身の腿に頭を乗せて安らかな寝息を立てる年上の少女の頭を撫でて笑みを零す。

今日もいつも通り波乱に満ちた一日だった。
ハリスは女生徒に声を掛け、まるで競う様にリッツも女子(セシル含む)に接近し過剰なスキンシップ。
そしてエレナに引っ立てられ、ラピスの元へ連れていかれる。
バルダは相変わらず強者との決闘を望み、レドナに挑発されたベルガは追いかけるも、さも当然の様に逃げられた。

他にもジェラルドやラック、クラスメイトのサラや演劇部の部長等、我の強過ぎる連中が各々の欲望に忠実に従い、それらはカルディア学園という狭い鍋の中で煮詰められ、より大きく、より複雑な混沌を作り出す。

混沌……それは確かに混沌だった。
各々の欲望に忠実だからこそ分かりやすく決まった行動を取るものの、場所や相手、場の流れ等でそれは微妙に変化し、僅かな違いを生み出す。

そしてその僅かな違いが積み重なり、昨日とはまた違った一日を形作るのだ。

しかし渦中の彼等はそこに不安や違和感は抱かない。
彼等にとっては、昨日と違う今日こそが日常なのだから。


「フフ、こうしてると思い出すなぁ……」


セシルはアリソンを撫でながら宙を見やり……


「あの時は、こんな事になるなんて想像も付かなかった。
アリソンさんとも険悪だったし。……いや、私が一方的に嫌ってただけか。
当時の私が今の私を見たらどう思うかな……………気絶するかも」


当時の自分が目を回して倒れる光景を想像したセシルはクスリと笑い……そして済し崩し的にあの時の事を考える。

それは高等部に上がりたての頃……彼女がまだ"普通"であった頃。
"普通"であり続けようとしていた頃―――





「あの女マジウザい」


セシルが属する『仲良しグループ』の一人が毒づいた。
それに呼応する様に他の二人も声を上げる。


「あたしもー。ラピスって可愛い子ぶって気に食わない」

「男に……や、スケ番に媚びてんのバレバレ。くそ、なんでアイツばっかり……!」


その一名は嫌悪ではなく嫉妬の感情に近いようだが、どちらにせよラピスという少女に好感は持っていない。


「セシルもそう思うでしょ?」

「……うん、私もああいうタイプは苦手かな。
この前話し掛けられたけど、なんて言うか甘ったるくて」


セシルは軽く微笑みの表情を"作り"ラピスをそう評した。


(違う)


しかし心はそれを否定する。


(ラピスは本心で人の為に笑って泣いて……辛く当たる私にも歩み寄ってくれる)


しかしそれを口には出せない。
彼女が属するグループはラピスに対し、良い感情を抱いてはいない。
それに逆らう事は"普通"ではない……多数派の意見こそが普通であるなら、普通を望んでいる自分はそれに合わせるべきだ。


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