カルディア学園
□図書室に巣くう混沌
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キーン・ブックスは気弱な少女だ。
今日日珍しい三つ編みで、度の強い眼鏡の向こうでは常に目を伏している。
勉強も運動もそこそこで友人も少なく、目立たない存在。
しかし本を読むのは好きで、故に図書委員に立候補した。
自分から何かを主張するのが苦手で、相手に何かを言われたら逆らわずに同調する毎日。
しかし大好きな本……そして図書室での出来事には勇気を振り絞る。
そして今日も彼女は図書委員として間違いを正そうと歩みを進めた。
問題児の元へはすぐに辿り着くだろう。
数少ない友人……同じ図書委員のキャロット・サーチに羽交締めにさえされていなければ。
「は、放してキャロット……!
私は図書委員として見過ごしてはおけないの……!!」
「いやマジでヤバいんだってアイツは!
関わらない方が良いって」
「でもあの人は椅子を五つも占領して寝てるのよ!
本は読まないし席は取るし……!!」
「あんまり人居ないから大丈夫だって。
現にほら、アイツがあんなんでも席スッカスカじゃん?」
「う……それは確かにそうだけど……」
「アイツは本当にヤバいんだ。強いだけじゃなくてヤバい。狂ってる」
「……そ、そんなに?」
大仰な脅し文句にキーン本来の臆病な顔が現われてきた。
キャロットはその機を逃すまいと畳み掛ける。
「そーよぉ……バルダさんやレバンさんみたく『一般人には手を出さない』人なら良いんだけどね。
けれどアイツ……ジェラルド・クライドはそうじゃない。
邪魔者は老若男女問わずに蹴り倒す悪魔の男!
マフィアにも繋がりがあるって言うし。そんな無茶苦茶して未だお日様を拝めるのもその為だって言うし……ほら、その証拠にいっつもスーツでしょ?」
「た、確かに……でもスーツだけでマフィアと繋ぎ合わせるのは……」
「何言ってんの! スーツはマフィアの制服だよ。
それでなくても、毎日あんな真っ黒スーツ来てくるなんて普通じゃない。
幾らお洒落に疎いキーンでも『ないわー』って思うでしょ?」
「た、確かに変わったセンスだとは思うけど……」
「しかも幼い子供を手籠にしてSMプレイをかますロリコンドS野郎。
そんな奴に目を付けられたらキーンなんてあっという間に拉致されて外国に売り飛ばされるに決まってるよ!」
「流石にそこまでは無い……と思う、けど……」
「危険な橋を渡る必要は無い。
昼寝の注意をしたばっかりに奴隷生活なんて両親も悲しむわよ?」
「う、うん……そうだよね……」
「そーそー! ほら、分かったら力抜いて」
「う〜……」
キーンは未だ不満げだが、キャロットの脅しと怪しさ抜群のジェラルドへの恐怖によって食らい付く気力も失せた様だ。
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