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□生きる証、生きた証。
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ひとりになってから、もう何度目の春を迎えただろう。
蝦夷の遅咲きの桜を眺め、ぼんやりと考える。

貴方がいなくなってから、私は少しだけ強くなりました。
朝、一人で起きる事も、自分の分しかない食事や洗濯物にも、決して絶望しなくなりました。
最初は、貴方自身が無くなってしまいそうで、不安で、貴方の物をかき集めた事もありました。
でも、それではいけないと、鬼の副長と呼ばれた貴方なら、私を怒鳴りつけてくれるでしょう?

「思い出にすがりつく事は、逃げる事と同じ。」

何事からも逃げなかった貴方が選んだ私が、そんな生き方出来ないもの。

ねぇ?
貴方は今でも、桜を見上げていますか?
春の月を、変わらずに美しいと感じていますか?
今でも私を愛してくれますか?

貴方が残してくれた、幾千の思い出は、今も私の中に。
貴方が残した最期の言葉、今でも覚えています。

「誠を貫いてここまで来たが、その道中では色んなもんを無くしちまった。それでもお前は、お前だけは、ずっと俺の傍にいた。お前が俺の‥‥‥俺達の生きた証だ。愛してる。何度桜が散ろうと、俺はお前だけを愛し続けるから。」

そう言って、貴方は消えてしまった。
羅刹となった貴方には、骨すら残らなかった。
だから私は、貴方をかき集めて、そして桜の樹にまきました。
花咲爺みてぇだなって、貴方は笑うかもしれない。
だけど、だからこそ、私は今でも桜を見上げる事が出来ます。
一人では泣いてしまいそうでも、貴方がいれば、私は強くなれるから。

「歳三さん。今年も桜が綺麗です。」

そう、それはまるで‥‥‥

桜の樹は、まるで笑うかのように、風に揺られていた。





2009年 11月16日

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