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□君を愛してる。
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「寒い‥‥‥。」
夜になれば、暗闇と静寂と共に、冷たさが降りてくる。
寒さでかじかむ手に息を吹きかけながら、千鶴は歩き続ける。
もう自分がどこを歩いているかも、分からなかった。

「‥‥るっ!」
何だろう?声が聞こえる。
「‥づるっ!」
すごく、安心する声がする。
「千鶴っ!」
突然温もりに包まれて、驚いた。
顔を上げれば、びっくりするほど近くに、原田さんの顔があった。
「‥はらだ‥さん‥?」
その顔は、今まで見たことがないくらい、焦りを含んでいて、
「馬鹿野郎っ!どこ行ってたんだよ、お前は!」
いつもはこんなに感情を表に出さないのに、
「‥‥‥ごめんなさい。」
そう言うと、ハッとしたような顔になって、
「悪い‥‥‥。そんな事を言わせたい訳じゃねぇんだ。」
そうして、小さく深呼吸をして、
「どうしてこんなに遅くなった?」
私の目を真っ直ぐに見つめて、
「…迷子になって、ずっと歩いていて、それから」
すごく心細かった事。
もう一生、原田さんに会えないんじゃないかと思った事。
思い出せば、涙が溢れて止まらなかった。

もう一度、原田さんに会えて良かった。
泣き出した私を、原田さんは優しく抱き締めてくれた。

「帰るか。」
漸く泣き止んだ私に、そう言って手を差し伸べる。
「?」
私はよく意味が分からなくて、首を傾げてしまった。
「手。」
「え?」
「繋ぐぞ。」
「え?え?」
そして強引に繋がれた手から、温もりが伝わる。
「原田さんっ!」
「なんだ?さっきまで抱き締めてたってのに、こっちの方が恥ずかしいのか?」
「‥‥‥うぅ」
真っ赤になって俯く彼女を、愛おしいと思う。
お前を愛おしいと思う気持ちは、言わなくたって、ちゃんと伝わってるだろ?





「お前を愛してる。」
その思いが伝わるのは、あともう少し先の話。




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