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□いつか芽吹くその日まで。
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「‥か‥!‥さん!」
誰だ?俺を呼んでいるのは。
「‥‥かたさん!」
どうして俺のことを何度も呼ぶ?
「‥じかたさん!」
そんな情けねぇ声、だすんじゃねぇよ。
「土方さんっ!」
「うるせぇ。」
風邪をひいたせいで、掠れる声でそういって、ゆっくりと目を開ける。
まだ狭い視界の中には、今にも泣き出しそうな顔をした千鶴がいた。
「‥‥‥土方さん?」
「おう。」
少しだけ気恥ずかしくなって、少しだけぶっきらぼうに返事をする。
「‥良かったっ‥!‥本当に、良かった‥‥!」
そういうと千鶴は、寝ている土方の隣で、うずくまるようにして泣き出した。
医者の娘だった彼女は、きっと誰よりもずっと、命に敏感なのかもしれない。
彼女の頭を撫でようと、右手を出そうとすると、その手が既に彼女によって塞がれていることに気付く。
ずっと手を繋いでいたのだろうか?
繋いだ手は、自分よりもずっと小さくて、びっくりするほど、頼りなく震えていた。
「悪かったな、心配かけて。」
仕方なく、土方は起き上がり、左手で彼女の頭を撫でる。
「だけど、お前にゃ泣き顔は似合わねぇよ。だから、早く泣き止んでくれ。」
その声に千鶴は顔を上げ、土方を見る。
それでもまだ、涙は止まらなかった。
「おいおい、お前は随分と泣き虫だなぁ。」
俺たちに捕まった時には、涙1つ見せなかったのに。
「土方さんのせいですっ!!」
涙を流しながらそう言う彼女を、とても愛らしいと感じたのは、こじらせた風邪のせいなのか。
繋いだ手を引き、思わず抱き締めていたのは、額の熱のせいなのか。