04/27の日記

18:05
TOA 被験者×妖獣
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導師イオンは12歳という若さでその生涯を終える。


そう預言を詠んだのは他でもない、イオン自身だ。
そして現在、その預言通りイオンの身体は病に蝕まれ、年々弱りつつある。
その上11となった今ではベッドから起き上がることもままならなくなってしまっていた。

せいぜいあと、一年くらいか。

イオンは冷静に自分の肉体の限界をそう推測する。
己の死を間近にしても不思議とイオンの心の内は静かであった。
……ただ、一つだけ心残りがある。


「…イオン、様?」

がさり。木の枝の揺れる音が響いた後、突然ひょっこりと部屋の窓から桃色の頭が姿を現す。
一瞬驚いたように目を見開いたイオンであったが、それがよく見知った少女であることに気が付くと安心したように柔らかく微笑んだ。


「…全く、お前はなんでいつもそんなところから来るんだい?アリエッタ」
「アリエッタ、イオン様に会いたくて、来たです。アリエッタ木登り得意です、だからイオン様、早く会えるです」

人として生きるより獣として生きた時間のほうが長いこの少女はあまり二足歩行を得意としていない。
今となっては普通に歩くことも可能だが、どうやら階段だけは昔と変わらず苦手のようだった。(因みにイオンの病室は三階にある)

…そして毎回のことのように思うのだが、アリエッタがこちらの窓へと飛び移るためによじ登っている木はこの窓からかなりの距離があるはずだ。
全く…この子はその小さな身体にどれくらいのエネルギーを秘めているのだろうか。それに、もし僕が窓を開けていなければ一体どうなっていたことやら。
まあ、この子が来るかもしれないと毎日律義に窓を開けて待っている僕も大概、アリエッタに甘すぎるのかもしれないが。


「……アリエッタ、おいで」

ベッドの上からちょいちょいと手招きするとアリエッタはぱあっと顔を輝かせてパタパタと小走りでこちらにやってきた。
そしてどーんっと効果音がつきそうな勢いでイオンに飛び付く。
かの導師にそんな恐れ多い真似をできるのは恐らくアリエッタくらいのものだろう。
しかしイオンは慣れたように飛び付いてきたアリエッタを抱き寄せ、膝の上に乗せると、木に登った際に引っ掛かってついたのだと思われる木の葉をいくつか桃色の髪から一枚ずつ丁寧につまみ上げて取ってやった。


「ありがと、です。イオン様」
「…どういたしまして。最近ではちゃんとお礼も言えるようになったんだね」
「はいです」
「うん、いい返事」

良く出来ました。そう言って頭を撫でてやるとアリエッタは心地好さげにふにゃりと笑う。
こういうところはまだ獣のようだな、とイオンは柔らかく苦笑した。

……でも、
…でもね、アリエッタ。
僕に残された時間はあと少ししかないんだ。
あと少ししか、お前と一緒に居られないんだよ。

そう言えたらどんなに良かっただろう。
…でも、僕はそれをお前に伝えることができないのだ。


「イオン様?どうした、ですか?」
「……なんでもないよ。ただ、」

もう少しだけ、こうしていてもいい?
アリエッタがそれに対し返事を返す前にイオンは彼女の肩へと顔を埋める。
なのでそんな彼の頭を抱き寄せることによって少女は了承の意を示した。


"レプリカ"イオンの準備はもう既に整っている。
…これで、僕が死ぬ手筈は整った。予定通り僕が死んだらその死体と僕のレプリカの入れ替えが行われ、導師イオンの死は見事に隠蔽されるだろう。
そしてアリエッタは導師守護役を退任させられる。
だって彼女は、"本物"の導師イオンを知っているのだから。

そうしたらきっと、お前は泣くのだろうね。
そしてその、新たな導師守護役を恨むのだろうね。


(それでもなお、お前の笑顔を望んでいるこの僕は、)

(なんて残酷なのだろうか)




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オリジナルイオン様好きです。

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