時破りの呪術王

□幼子編
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「僕、お水持ってきますね」

サラザールは甲斐甲斐しく世話を焼く。
こんな俺に。

あの後サラザールは俺に名を尋ねた。
だが俺は言い淀んだ。
この名を知られればサラザールは俺に恐怖の視線を向けるかもしれない。

それが言いようもなく怖かった。
この俺が、たった一人のガキに……。

偽名は…名乗りたくなかった。
何故だか分からない。
ただ偽りたくなかった。
サラザールには…この無垢なガキには…。

そうしたらサラザールは「無理には聴きません」って言ったんだ。
「いつか、教えてくれる日まで待ちます」って…ホント、あんなガキに気を使われちまうなんてな…。

でも、どうしてだろう。
サラザールの声に、姿に…落ち着くんだ。
なくしていた物が帰って来たようなそんな…不思議な感じ。

「ミーミル……」

なぁミーミル。
どうして逝ったんだ?

戻って来るって言ったのに……。

また一緒に…って……。

「俺は太陽にはなれないよ…ミーミル…俺の手はこんなにも…」

こんなにも穢れてる。
妻を殺して仔を殺して…友を殺して……。

「あの、お水を持ってきました」

部屋の入り口から声がする。
サラザールだ。

「入ります」

一言断り、部屋へと入ってくる。
どうやら話は聞かれていなかったらしい。
内心小さなため息を漏らす。

良かった…そう思う。
らしくもないが、このガキには嫌われたくない。

ホントらしくない…。

「包帯替えますね」

サラザールは水差しをテーブルに置き、真新しい包帯を取り出した。
俺はサラザールの好きにさせる。

「痛い所ありませんか?」

「あぁ……大丈夫だ」

ごめん…。
ごめんな…。

きっとあいつらは俺を恨んでいるだろう。
この愚かな父親を、浅ましい父親を……。

「あの…本当に痛い所ないですか?」

「ん?…あぁ……ぁ」

気づけば頬が濡れていた。
涙が流れていた。

「あの…」

「サラ…大丈夫だ」

そう言うとサラザールは驚いたように目を見開いて…それからにっこりと微笑んだ。

あぁ、俺は酷い父親だ。
わが子にろくに微笑んでやる事だってしなかったんだから。

ごめんな……。
[7]

ロキ中心。
サラの介護生活☆
ちょい短め。
[2010.5.20]

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