時破りの呪術王

□幼子編
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引き摺る足で、俺は歩き続け……そして傍と気がついた。
見覚えのある扉。

そうあの無垢な子どもと陰険眼鏡の住む家の扉。

あぁ…俺はここに戻ってきたのか。
おれはそっと手を伸ばした。

此処に答えはないだろう。

救いもないだろう。

でも、あのガキに……あのガキの顔が見たかった。
あの無垢な眼差しが見たかった。
あの……。

この家を飛び出していった俺に、そんな資格があるとは思えない。
それでも俺は……扉を開けた。

「ぁ……」

子ども特有の可愛らしい声が聞こえた。
あのガキの声。

そしてガキは俺を見据え……。

「おかえりなさいっ」

ありったけの笑顔で俺を出迎えてくれた。


こんな俺に……。

こんな……。


ホント…馬鹿だわ、俺。
ホントに…ホントに……。

俺のせいで殺された仔達。
俺のせいで殺した仔達。
俺のせいで呪いを受けた仔達。
俺のせいで…俺のせいで……。

どいつもコイツも俺が不幸にした。
あんな綺麗な眼をしていたのに…。

アイツだって、俺が殺したも同然だ。

俺が……。

「あの…お腹へっていませんか?スープを温めますね、痛む所はありますか?」

甲斐甲斐しく世話を焼くガキ。
俺はそんなサラザールを抱き締めた。

俺が抱き締めてこなかった仔ども達の分も……。
俺は力いっぱい抱き締めた。





「ごめん……ごめんな…ごめん……」

すすり泣くような声が聞こえた。
廊下の奥から見てみれば、そこに居たのはあの邪神ロキ。
あぁ…やっぱり戻ってきてしまったんだね。

酷く暗い歓喜と同時に絶望に近い何かが僕を襲う。

彼女は僕と同属だ。
大切な物を失い…心が壊れた…同属。

だからこそ、沸き起こる歓喜と……そして救いなどないという絶望。

あの子は優しくそんな邪神を抱き締める。
本当に優しい子だよ…君は。

彼女と僕は同属だ。
大切な物を失い…心が壊れた…同属。

でもね。
彼女と僕は違う。
見ていれば分かるさ。
全然違うんだ。

幼子(サラザール)に縋る君と……縋る事さえ忘れた僕と。

感情を忘れた君と……感情を失くした僕と…。

壊した君と……壊そうとする僕と…。


ほら、君と僕とはこんなに違う。


全然違うんだ。


だから僕は一歩足を踏み出した。
彼女から遠ざかる方へと…。


僕と君とは違いすぎるんだ。
[6]

前半ロキ視点。
後半レクノア視点。
こんな環境でサラザールはまともに育つのか!?
ちょい短め。
[2010.4.26]

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