時破りの呪術王

□召喚編
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もうどれくらい歩いただろうか…。
本当に情けない。
空間転移だってろくに使えず、どこかの山中に放り出される始末だ。
体中が痛むが、どうでもよかった。

終わりたい。

逝きたい。

ソレだけが俺を動かす。

アイツの所へ逝きたいんだ。
アイツの……。

痛む体を引き摺りながら辿り着いた崖、そこに小さな少女が座っていた。
青味がかった灰色の髪。
何をするでもなく少女は蒼い空を見上げる。



『ロキ、今日は星が騒ぎますね』

アイツの声が聞こえた気がした。
姿形も、髪の色も何もかもが違うけど…俺はそう思った。
だから俺はその少女に近寄った。

辿り着けるような気がして。


「おぃ…何を見ているんだ?」

声をかけてみた。
アイツの笑顔が見たかった。

「空」

返答は、俺の望んだものよりも遥かにそっけない物だった。

「空は何処までも続いている―――」

少女が呟いた。
どこか淋しげだが、そのときの俺はそんなこと気に留める余裕すらなかった。
ただ、その言葉に呑まれていた気がする。

「例え二度と会うことが叶わなくとも、この空の先に…きっといる」

まるで俺の心に囁きかけるような言葉だった。
少女はじっと空を見上げている。

「お前……」

「目に見えなくとも愛は残るもの……」

その時俺はやっと気がついた。
その少女が涙を流していた事に。

「貴女も大切な何かを亡くしたの?」

少女の目は、悲しみに暮れながらも凛とした鋭さを持っていた。

「お前は…」

「大切な友達を亡くしたの……翼がとても綺麗で、気高い眼をしていたわ…彼ほど素晴らしい鷹を私は見たことがない」

鷹…。
飼っていた鷹が死んだのか。

つまらないと思う反面、少女の様子がなぜか気になった。
それほど大事にしていたのか?
たかが鳥一匹……それでも、きっとこの少女には譲れない物があるんだろう。

「……見て…見たかった」

俺がそう言うと少女は初めて此方を向いた。

「世界中で一番美しい仔だったわ、この空を何者にも捕らわれることなく…誰よりも優雅に飛んでいたの」

涙を流しながら、少女は凛とした口調で告げた。
少女は…笑っていた。
悲しみに暮れながらも、力強い笑みだった。

アイツの笑い方に似ている気がした。

「私は泣くわ、だってあの仔は私が生まれた時からずっと一緒にいた親友なのだから―――――そして誇るわ、私には…誰よりも素晴らしいあの仔がいてくれたのだから―――私にはきっとやる事があるの…それが終わるその時まで、この空の果てで…あの仔は私を見ていてくれる」

……何かが胸の中に、ストンと落ちた気がした。
だからだろうか…俺はぽつりと呟いていた。

「アイツは…いるのかな?」

この空の果てに、アイツはいるんだろうか?

「えぇ、きっと貴女の事を思っているわ」

今は辿り着けないけど…きっといつか……、その日のために。
この少女の大切な存在の傍で…アイツは笑っているのかもしれない。
ならば……。

俺の心はアイツを求めて叫ぶけど……。

やること…神々の世界を滅ばした俺が、何を成せばいいのかなんて全然分からないが、それでも……それを成して、アイツに逢えるのなら―――俺は…。

もう少しだけ。

アイツに逢うために。

「……ウェナぁ!…ロウェナぁっ!!」

「ぁ…兄上……」

少女に駆け寄ったのは一回り大きな少年だった。
兄妹か…。

「よかった、見つかって…父上と母上が心配していだぞ?」

少年はにっこりと笑った。
不思議な少年だ。
霊力が魔力の覚醒を阻害している…。
まぁ…俺の知ったことではないが……。

「すみません…」

「いいんだ、さっ帰ろう?」

「はぃ」

少女は少年に手を引かれ、歩き出した。
その足取りは意外としっかりしていた。
ふと、少女は振り返り俺を見た。

「ロウェナ、行くよ」

「っはい兄上」

少女は兄の背を追い小走りで駆け寄った。
ふたりは手を繋ぎ俺の視界から消えていった。

妹を迎えに来た兄。
兄に手を引かれついていく妹。

兄妹…か。



『ぁ……はじめまして、サラザール・スリザリンです』

ふとあの漆黒の髪の少年を思い出した。
そう思い込みたかった。
だって…俺は…。

俺はうずくまった。
気づけば頬に何かが伝う。

獣の様な叫び声が、自分の泣き声と認識するには大分時間がかかった。
泣いて、叫んで、泣いて……。
全てを吐き出すように泣き続けた。

失ったもの、奪われたもの……護れなかったもの…もぅ何が始まりなのかなんて分からない。
どうして俺は此処まで来てしまったんだろう?

どうして俺は何も護れない?


空は晴れ渡り、何も答えてはくれなかった。
[5]










懺悔の唄を紡ぐは罪をも知らぬ幼子よ。


時創りメンバー登場。
実は出逢ってたぞ話。
[2010.3.5]

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