時破りの呪術王

□召喚編
3ページ/5ページ

空が白んできた。
もう朝か……。
僕はひとつ背伸びをする。

後ろでドサッと音がした。

振り返れば昨日の晩拾ってきた重体患者のはずのカミサマ…ロキが入り口のところで倒れている。

「何をしているんだい?」

「っ!貴様っ……」

彼女はキッと僕を睨む。
僕は口元を笑みの形に歪めた。

「僕はレクノア、レクノア・スリザリンだよ、邪神ロキ」

「レク……ノ…ア?」

彼女は意識を失った。
仕方ない、ベッドまで運ぶか……。

しかし彼女とて神のひとり、それがこんなに深い傷を負っているなんて………。
ま、放っておくわけにもいかない…か。
召喚した(呼んだ)の僕だしね。

彼女をベッドに横たえ、僕はまた研究室に籠もる……あの子が起きるまでもう少し時間もあるし……。







「おいで、サラザール」

それは太陽も昇りきって、サラザールが洗濯を終えた頃。
僕はサラザールを、僕の息子を呼んだ。

サラザールは不思議そうな表情で僕を見た。
あぁ、いつもはサラザールの方からだもんね、声かけるの。
「ご飯ですよ、父上」とか「薬草を取ってきました」とか…。

漆黒の髪…真紅の眼……君は僕の子。
綺麗な顔立ち…優しい声……君は彼女の子。

サラザール……君を見ているのが辛いよ。

「父上?」

「………そのガキは?」

寝室から声がする。
ロキの声。
男性のものとも女性のものとも判断しづらい声色…彼女とは全然違う。
ロキはベッドの上から僕を忌々しげに睨みつけた。
わぁ、失礼だなぁ……僕、一応家主なんだけど。

「ガキじゃない、名はサラザール…僕の息子さ」

僕はそう言いながらサラザールの頭に手を置いた。
ほら。
可愛いだろ?
彼女に似て……。

「サラザール?………ふぅん…で?俺をどうするんだ?」

ロキはつまらなそうに僕にそう尋ねた。

「くくっく…ふっははははははっ」

僕はわざとらしく笑い声を上げた。
わぁ、すっごい睨んでるよ…あの人。
傍らではサラザールも硬直してる。

「別に…君をどうこうしようという意思はないね、それにしてもそっけないなぁ……サラザールはしばらく君の看病を頼むのに」

その言葉にロキの顔は本当にきょとんとしていて…そう驚きすぎて物も言えない、そんな感じ。
カミサマもそんな表情をするんだね。
まるで普通の人間の様だ。

僕とは全然違うよ。

「………あの…父上?」

サラザールが戸惑いがちに僕を見上げてきた。
彼女と同じ表情……生き写し…。

「…っは!なんだぁ?生贄のつもりか?自らの子を俺に差し出すと?」

「さぁ、どうだろうね」

僕は唇の端を笑みの形に歪める。
だめだよ。
僕は普通じゃないんだ。

分かってる。
大丈夫だよ。
僕は壊れているんだ。

彼女が居ないから。

「父上?」

「サラザール、この人の看病を頼むよ?」

「あ……はい」

「……と言うことだから、ね?」

父は笑顔をロキへと向けた。
ロキこの状況が気に入らないらしく、ちぇっと小さく舌打ちをする。
ほんとガラの悪いカミサマだね。

僕は研究室に戻った。

サラザールは大切だよ?
だって彼女がその命と引き換えにして産み落としたんだから。

でもね。
僕はおかしいんだ。

サラザールは大切で……。

あぁ、思っちゃいけない事だってわかってる。
それでもあの子が……。

無性に……。





「ぁ……はじめまして、サラザール・スリザリンです」

そのガキは俺に礼儀正しく頭を下げる。
精一杯の誠意を表したいらしい。

レクノアと言ったか…アレのガキ………ってかアレに子どもいたのか…。
なんか目がトチ狂ってたからな、周囲に誰かを置くなんて意外だ。

いや…案外普通なのかもしれないな、俺にも…ずっとアイツがいた……居たんだ。

「あの…怪我、痛みませんか?」

「………」

どうでもいい。
怪我も……あのトチ狂った目の野郎も……このガキも……この命も……世界も……皆どうでもいい。
皆……みんな……。

この俺が滅ぼしたんだ。

この俺が………殺したんだ。

「傷薬……用意してきます、あと包帯も…横になっててくださいね、すぐに戻ります」

ガキはパタパタとどこかへ走っていく。
あの漆黒の髪が……アイツに似ていた。
[3]

サラザール10歳。
昔は健気な少年でした。
[2009.11.8]

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ