キミが進んだ道を語ってみようか

□アタシの小さな世界が消えちゃった日(プロローグ)
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時間は止まってはくれない。


冷たく妖しく光る満月がやってきた。

この夜が終われば、またいつもの暖かい時が流れていくのかと思っていた。


でも…。




もう…昨日まであった安らぎは、

ここにはない。


あるのは苦しみと

絶望と

恐怖が

人々を支配する。



































「   」


名前を呼ばれて振り向く。

遠くから燿が正装した姿で現れた。

きっちりと着られた着物に、お札が左右に入れられた装備品が揺れる。

だけどいつも汚れのない綺麗な着物に、今回初めて血が付着していた。

長い廊下から、あたしに近づいてくる足取りは早足で、追うようにドタドタと多くの足音が聞こえる。


「燿様!!」

「…報告を」


周りで輝の名を呼んだのは、いつも燿を従えている者達だ。昨日も一緒に遊んでくれたんだ。




「西門より、力を持たない住民を避難中。反対の東門近くはもう時間の問題です」


「転送先には絶対近づけるな。例え、どんなことをしても。一秒でも時間を作れ。戦闘員以外の住民を逃がすことを最優先にだ」


「御意!」



そう返事をして、あたしを横切る時に、ポンと頭を触って行ってしまった。

その姿を目で追う。


『?』


「…さて、あなたで最後よ」


あたしの傍に来て、目線を合わせるため腰を下ろし、見つめられた瞳。

荒々しい目が、あたしを見た瞬間いつもの目に戻っていた。



『…か…がり?どうしたの?』



そう聞くと悲しい瞳に変わった。



「この結界の存在がAKUMA達にばれたわ。今攻撃を受けてる」


『!!?』


「ただ攻めてきたわけじゃない。AKUMAは何かを探してる…。それが分かったから時間稼ぎをしているとこよ」


『――――探し物は…』



…あたしだっっ!!




今ココにおきている状況を知ったあたしは頭の中が真っ白になり、次第にギリッと奥歯を鳴らし、自分を憎むように攻め続けた。






あたしは、ココにいちゃいけなかったんだ。


分かっていたくせ

あたしを追って、あいつらがあたしを探してることに。

知ってたくせに。

…皆のいるここから、離れるなんて考えられなかった。

皆といたあたしは、「孤独」という想いを覚えてしまったからだ。



それがこの結果だ。




全部全部!あたしのせいだ。


このままじゃ

皆が…っ死んじゃうっっ!!

あたしのせいで、あいつらに殺されちゃう!




そんなの、絶対に嫌だっっ!!!!





今の自分にできることがあるなら、それで皆を守ることができるなら


あたしは、どうなってもいい!!

皆のために死んだって構わない!!





「…それは、私がさせない」


『!!』



頭の中の叫びに燿が答える。


いつの間にか燿の額が俺のとくっつけていたことに気が付く。

淡く光る額から、燿が額を離せば元に戻った。

ぐいっと前に引っ張られると、強く強く抱きしめられる。


締め付けた腕をはらわず、そのまま腕の中に留められる。

あたしの思考が停止した状態で燿は呟いた。



「最後の言霊よ【おやすみなさい】」


『…!?いやっ……だ…』



動かそうとした体に力が入らない。抵抗の言葉もすでに続かないまま、廊下に崩れ落ちていった。










どうしてあたしは、幼い子供で、女だから…て、周りに守られているんだ。


頼むから…!

あたしを守ろうとしないで…っ!!



あたしせいだと言ってよ。

おまえのせいだと、恨んでくれよっ!!



こんなあたしに

愛を…与えないでよ……。








――…その幼い少女は、少女以上に…少女を愛した者達の想いに、心がつぶれそうだった…――






イ ヤ ダ…。

イ ナ ク ナ ラ ナ イ デ…。





それだけが、少女のただひとつだけの、叶えたい願いだった。







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