キミが進んだ道を語ってみようか
□アタシの小さな世界が消えちゃった日(プロローグ)
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この話は、俺がまだ幼く、日本に住んでいた頃のことだ。
ある日。俺は あいつに出会った。
それは本当に偶然だった。…いや、偶然ではなく必然だったのかもしれない。
初めて俺の姿を見たあいつは驚いた表情を浮かべた。
俺は地面に四つん這いで構え、鋭い眼光には殺気があった。頭の中では、どうやって目の前の相手を倒すかということだけ考えている。
羽織られただけの布切れも、端が何かに襲われ切り刻まれた跡らしいものが残っており、血痕が付着していた。
AKUMAがあちらこちらに飛び交う戦慄としたこの日本で、何の装備もしていないこと。
一人でましては幼い少女だったこと。
目の奥にある殺気と一緒に感じる異様な力。
その現状をすべてを理解したあいつは、俺に微笑んだ顔を見せて、簡単に…俺を受け入れてしまったのだ。
俺が 誰なのか 人なのかも分からない そんな得体のしれない奴を拾い、自身の屋敷に持ち帰って育てようとする物好きで変わった人間だった。
あいつは、俺を自分と同じ人間だと周りに言い、遠ざけずに愛そうとした。
その出会いは、俺を女でなく男として生きていこうと決意させたあの夜へと続く悲劇の始まりであり。
俺の心に深く残った一生直らない傷になった。
すべては、俺がまねいたこと。
俺に…守る力が足りなかったから、おきてしまった…。
その日は満月の日だった。
その前夜、何も知らない俺は、自分は与えられていた部屋に、一人で空を見ながら考え事をしていた。
アイツに拾われて(てか無理やり拉致られて)何カ月だろうか…。
ここの屋敷に来てから、あたしはいろんなことを知った。
皆が …アンタが 教えてくれた。
たくさんの 人としての想いを。
人として とても大切なモノを あたしに分けてくれた。
今では居心地がいい…なんて思えてきてしまうくらいに(…そんなことをアイツに話たらぜってー調子に乗るから言わないけど…///)
ふと、出会ったあの日を思い出す。
昔のあたしは獣と同じだった。
自分以外の存在を敵意し、近づくものすべてを壊していくことで身を守ることしか知らなかった…。
でなければ…こっちが殺されるのだと本能がそう告げていたからだ。
だから壊してきた。
ただ自分を殺気出す視線しか送らない奴らを。
ただ殺すのだとしか言わない奴らを。
そして、自分はこうして生きてこれたのだ。それがAKUMAという者だったらしいが、俺からしたら人とAKUMAの見分けなんてつかない。
あの日あたしは突然人の住む場所に連れてこられて動揺し、力任せに暴れまくった。
(こわす。こわす。こわさないとこわされる!)
人というモノと奴らの違いが分からなかった。
周りは恐怖や異端な者のようにあたしを見た。
出会った時、こいつらも同じだと思ったのは、今まで壊してきたモノと形が似ていたから、すぐに攻撃態勢になった。
でも、あいつらとは明らかに違ってた。
研ぎ澄まされた心を優しく触れられ
壊してきたあいつらとは違う暖かさが触れらた場所から感じられた。
あたしと同じ、生きた者の暖かさだった。
何者か分からない自分を、恐れることなく抱きしめられ
優しく触れられたその腕は、不思議と心地よくて。
そのままあたしは、皆のいる屋敷に連れていかれたのだ。
「あなたに名前を付けなきゃね」
あいつはそう言って、あたしの存在を受け入れる証として自分にナマエをくれた。
名前をくれたその者は、綺麗な黒い瞳をしており、長い黒髪をした女性だった。
それがアンタとの
…燿(カガリ)との出会いだった。
自分以外は何もなかったあたしの世界に、気がつけば燿と周りの皆も一緒にいて
皆 あたしが近づくと笑顔で迎えてくれて 怖がらずにあたしに触ってくれるんだ。
その撫でてくれた手や皆の表情。
それだけで、すごく嬉しい気持ちが生まれてきた。
幼かった頃の自分にとって
この小さな世界が、宝物のように大切だったことをその時は気が付けなかった。大切なのだと自分に正直になったのは、無くなってからようやく、気づいたのだ。
どうして掴めなくなってから、気が付いてしまったのだろう。
あたしの人生を変えたあの日。
その日の月はあんなにも赤く染まっていたのに。
皆に会う前の自分だったら、こんな不気味で殺気立つ異様な空気に気が付いていただろうに…。