Silver Soul+

□名も無い花
3ページ/4ページ





「あ…」


墓前に供えた名もなき花の花弁が一枚、風にさらわれて散り落ちる。

無意識に伸ばした手は当たり前のように届かなかった。



「なんで」


まるでお前と同じじゃねェか。

儚な過ぎて、俺じゃいつも届きやしねェ。


気付いたら、いつだって遅いんだ。

俺の言葉も
手でさえも

何もかもが届かないまま。






「…また、来る」


すっかり日の落ちた宵の空を仰ぎ見てから、俺はそう言って踵を返した。









―ひゅっと、風が吹く。








『十四郎さん』



「……」



もう聞こえないはずの声が聞こえた気がして振り向けば、やはりそこには何もない。


聞こえた呼び声はきっと。

頭が覚えている、遠い昔のお前の声。


でもそれでもいい。
返す声は聞こえないけど、

今近くにある、少し温かい感触はきっと。




「ミツバ…」

悪ィ、幸せに出来なくて


でも
今でも 本当に好きだから。



















ずっと 好きだから。











fin.→あとがき
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ