Silver Soul+
□名も無い花
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「あ…」
墓前に供えた名もなき花の花弁が一枚、風にさらわれて散り落ちる。
無意識に伸ばした手は当たり前のように届かなかった。
「なんで」
まるでお前と同じじゃねェか。
儚な過ぎて、俺じゃいつも届きやしねェ。
気付いたら、いつだって遅いんだ。
俺の言葉も
手でさえも
何もかもが届かないまま。
「…また、来る」
すっかり日の落ちた宵の空を仰ぎ見てから、俺はそう言って踵を返した。
―ひゅっと、風が吹く。
『十四郎さん』
「……」
もう聞こえないはずの声が聞こえた気がして振り向けば、やはりそこには何もない。
聞こえた呼び声はきっと。
頭が覚えている、遠い昔のお前の声。
でもそれでもいい。
返す声は聞こえないけど、
今近くにある、少し温かい感触はきっと。
「ミツバ…」
悪ィ、幸せに出来なくて
でも
今でも 本当に好きだから。
ずっと 好きだから。
fin.→あとがき