Sakaeguti*shinooka

□片想い同盟
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終業のベルがとうとう鳴った。パサパサとノートや教科書がしまわれる音がする。淡々とプリントを読み上げていた、白髪まじりの生真面目そうな先生は、また淡々と教室から出て行った。これから昼休みだ。

「アベー。自販機でオレにコーヒー買ってくんね?」

 短髪で、ひょろ長い少年がほかに二人の友達を連れてやって来ながら言った。彼ら三人は野球部員ではなく、剣道部員なのだが、なんとなく気が合って一緒に弁当を食べているのだ。このクラスメイト達に、花井と水谷が加わり、ゆるやかだが輪を作るようにして、いつもだらだらと昼休みを過ごしている。時折そこに9組の田島が三橋を連れてやって来ることがあるが、わざわざ別のクラスに出向く割には田島も三橋もたいした用で来たためしがない。
 阿部は呼ばれた方に振り返ると、
「なんでオレが買わなきゃいけないんだよ。」
と笑いながら言い返した。
「ケチぃな。」
「当たり前だろ。」
 軽口を叩き合うと、相手の少年は適当に空いている席に座った。他の二人も腰を下ろし、いつのまにかその後ろに水谷も来ている。水谷は机をずらしてちょうどいい位置に持ってきた。
「あれ?阿部、座わんないの?」
水谷がこちらを見上げて聞く。いつもらな手に母親が作った弁当箱を持って、サッサと腰をおろしている阿部が、この日は手には何もなく、突っ立ったままなのだ。
「今日は、ちょっとさ。」
阿部が、曖昧な口調で答える。と、きゅうに教室の入り口に顔を向けて、
「篠岡!」
と、声を上げた。
 五六人の女の子とかたまって教室に入って来た千代は、ちょっと驚いたように顔を向けた。
「なあに?」
「昼飯、中庭で一緒に食わね?」

 阿部の言葉に、全員がサッと反応する。男子たちは阿部を見つめ、女子たちは一斉に千代に視線を向ける。千代は急に眼を伏せて床を見つめた。
この中で、唯一表情に変化がないのは阿部だけだった。

続く。
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