Mihasi*Abe

□ハーレムはいつもレンのちモトキ
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その日は夜風が気持ちよかった。
部屋の窓を開ければそこからもう涼しい風が気持ちよく吹き込んでくる。

オレと三橋廉はふたりきりでソファに腰掛け、一台の薄型テレビをみつめていた。画面に映っているのは、毎年恒例のプロ野球の珍プレー好プレー。はじめはこれといって目的もなく、ヒマな時間をもてあましてテレビの電源をいれたのだが、チャンネルを変えていくうちにこれが目に入って、暗黙の了解でこれに決まった。

いま、オレの恋人にして同居人の三橋廉はソファに寝そべり、同じくソファに腰をかけているオレの膝にその柔らかくて色素の薄い髪を頭ごと預けている。三橋はその金髪にすらみえる髪とトーンをそろえる気なのか、レモンイエローの地のTシャツを着ていて、それは胸から腹のところまで長方形の黒い枠線のなかにロンドンかそのあたりの町並みのモノクロ写真みたいなプリントがほどこされいた。彼のにょっきり伸びた白い足は、ジーンズ生地の膝丈のショートパンツから出ていて、そのインディゴがはふちを残してキレイに抜けている。愛らしいはずのレモンイエローのTシャツを着ていても、その柄と、色落ちしたジーンズで、男らしさを感じさせるている姿に、オレの体温はゆるやかに上昇していく。無邪気にオレに膝枕をされているけど、オレが履いているのもスモークグリーンのハーフパンツをだから、三橋の息がオレの膝をわずかにくすぐって、もうオレの意識はテレビ画面はそこそこに、全面的に膝小僧に集まっていた。ちなみにオレのトップスは先日近所のユ○クロで購入した実にシンプルな七分袖の淡い水色のシャツだ。

洋服を購入するという行為は、必要最低限に抑えておきたいオレと違って、三橋は意外にも友達と連れ立ってショッピングに行ったりする。田島とか泉とか浜田とかの9組仲間ででかけることもあるし、下手をすると群馬まで出かけていって、叶や三橋のいとこの三橋瑠璃という女の子と、以前に通い慣れていたらしいファッションショップでまとめ買いをしてきたりする。そうして群馬土産の焼きまんじゅうをオレに渡しながら、「今度は、一緒に、服…みよっ」といわれるのだが、オレはどうもファッションというものをどう自分の中で消化していいのかわからないし、オシャレになりたいという希望は人並みにあっても、そのためにセンスを磨く時間と熱意が必要だと迫られた時点でいつも放棄してしまう。自分に空いた時間があったら、どうせすぐさま野球に関する情報分析に費やしてしまうんだろうなあ、と強く感じるからだ。どうしたって、そっちのほうが楽しいのだから。

季節が変わればユニ○ロで、それなりに綺麗なデザインの服を必要におうじて購入し、それらが清潔であるように適度に洗濯をする。これだけでも、オレとしたらずいぶん服装を配慮した生活を送っているのだ。

三橋は、オレよりはまだ服に関してセンスと興味があるであろうから、洋服を見立ててもらってもいいんだけど、ショップの中を行き交う店員たちの中にいて、三橋がオレの身体に流行のデザインの服をあてて、似合うかどうかを考えている場面なんて、ぞっとする。三橋が悪いんじゃない。そんなところで野暮に突っ立っている自分のことを思うと悪寒がするのだ。

そんなことを考えながら、一方でオレは、自分の膝を温かくくすぐる存在に胸をときめかせているわけだ。安心しきっているのだろうが、それでもオレが思わせぶりに頭をなでると、ピクリと肩を震わす。ほんのりと赤くなってきた耳を指先でふれると、気持ち良さそうにオレにすりよるのがゾクゾクするほど楽しかった。そこはかとない色香がやみつきになってしまう。白くてすべらかな首元にもふれると少し居心地悪そうにもぞもぞと動かれた。

「阿部くん…テレビ…」
「わかってるよ」

困ったようにこちらを見上げて瞳をぎこちなく動かす様子が慣れるととても可愛らしい。
クラスで花井や水谷にそのことをいったところ、アイツらは黙ってオレの話しを聞かなかったことにしたけれど。なんで無視されなきゃなんないんだろう?
それともアイツら、この若さで耳が遠くなってんのかな。
まあ、とはいっても、他の男が三橋の可愛さに目をつけたら到底ゆるせるもんじゃないから好都合なのだが。そういや、花井といえば、その少しあとで『オレが心配しているのは三橋じゃなくて、お前のほうだよ』とかいわれた気がするが、あの言葉の意味、いまだによくわかんねーんだよな。なんでオレがあのオシャレ眼鏡に心配されなきゃいけないんだ? 練習も試合も真剣にこなして立派にチームの戦力になってんのに。そのうえで、チームの大事な投手のこともこんなに大切に大切に愛して甘やかして慈しんでいるというのに。このほかにアイツは一体なにをオレに求めているんだろう?

ああ、そんなこと考えていたら、オレの膝の上でその投手がもぞもぞと動いてもっと頭の乗せ心地がいい体勢を探りだした。やばい、可愛い。ズボン越しの太ももに三橋を感じる。この刺激は股間にくる。

「みは…」

腰のあたりを中心にオレの情熱が目覚めはじめる。思わず声をかけようとしたら、すかさず人の心を甘く溶かす声で三橋が熱っぽい息をあげた。

「阿部く…すごい…!」

え? なに? オレのアレが?

「いや、まあ、お前がかわいーかんさ」

まいったな、と照れ隠しにそういったのだが、三橋の視線はオレの顔なぞみないでテレビ画面に釘づけだ。

「…おい?」

肩すかしをくらって画面をみれば、珍プレー好プレーの好プレー集のほうが始まっていた。バッターが打った長打を、守りの選手たちが捕る捕る捕る。ジャンプ、フェンスへのしがみつき、飛びつき、回転、全力疾走のフライのキャッチ。そして地面に転がってでも、彼らのグラブの中には白球がおさまっている。

「かあっこいい!」

興奮気味に口走ると三橋はガバッとオレの膝から起きて、ソファも降り、テレビの前に座り込んだ。
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