日和

□法隆ぢにて
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太+妹


深くまろやかな味がする緑茶が美味しい。

「うーん、こんなお茶をいれられるって、僕ってすごいな」
「なに悦にはいっとるんじゃいこの芋め。たんにじーさん臭いだけじゃないか」
「わかってませんねぇ太子は。僕みたいに日夜、外来文化を学ぶことに心血を注ぎ、朝廷での仕事をこなし、その上であんたみたいな問題児の世話までしている頑張り屋さんは成熟するのが早いんですよ」
「口ばっかりはつべこべとよく発達してるよな、この屁理屈うま夫!テロリストも足ガクガクになる詐欺りスト!!」
「なんですかそれ、人聞きの悪い」
「隋で毒妹子を手にいれたときのあのあくどい手管を忘れはしないぞ」
「あれはアンタを無事に皇帝の元へ連れていくために仕方なかったんです。一応この国の摂政であるあなたに無理をさせてもしものことがあったらいけませんから」
「私とあの村娘のラブロマンスをズタズタにしといてよくいうわ!」
「あーあー、ハイハイ」
「この悪魔!毒芋!!」
「…でもやっぱり毒妹子に逃げられてよかったですね。あの馬なら元の持ち主の元へ帰れたと思います」
「そうかなぁ」
「大丈夫です、あの馬は賢い感じがしましたから」
「でも…あの馬、万引きの癖があるぞ」

「ないよ!だからアンタのなかの毒妹子像ってなんだよ!!」


バン!

「ひえぇ、妹子、ちゃぶ台を叩くな!」


「まったく…」
「君、よくキレるよね。最近の若者はカルシウムが足りてないんじゃないの?ヤングコーンはカルシウム配合だから育ち盛りのお子様にぴったり。毎朝の食卓に、サクサクのヤングコーンを!」
「…なに最後のほう、CMみたいな口調になってるんですか…だいたいヤングコーンってどんな食べ物なんですか?聖徳サブレと同じなんじゃ…」
「ち、違うわ!もっと、断然美味しいのだ」
「ふーん」
「なにその気のない返事」
「今晩の夕食、なんにしようなかぁ…」
「夕食のこと考えてるよこいつ!」
「野菜カレーにしようかな、あれさっぱりしてて美味しいし」
「しかもカレーのこと考えてるぅ!」
「…あー、でもやっぱり冷し中華かな」
「カレーだ!カレーにしんしゃい妹子」
「…そうだすき焼きにしよう!!」
「聞かんかい、お芋が!なんでカレーからどんどん離れていくんだよ。だいたいバリバリ仏教の飛鳥時代にすき焼きなんか食べれると思ってんのか!」
「えー?」
「文明開化まで待て、そのオカッパ茸ヘアーを散切り頭にして叩いてみてから食いやがれ」
「なんですかそれ」
「だから『散切り頭を叩いてみれば文明開化の音がする』ってな」
「なんで叩くんですか」
「え?!」
「なんで叩かなくちゃいけないんですか、叩いたらどんな音がするっていうんですか?ていうかちょっとバカっぽくないですか?」
「…そ、そんなことないぞ有名な言葉なんだから」
「叩いたら?」
「叩いたら…叩いたら『ブンブン』って音がするんだきっと」
「文明開化だから?」
「う、うん」
「…『カイカイ』じゃないですか?」
「…開化だから?」
「はい」
「えー?むしろ『メイメイ』だろ想像してみろよ妹子」



散切り頭にしたけど、もともと禿げてたのであまり変化がなかった港町のオッサンがそれでもダンディーにウインクをしながら頭をガス灯に叩きつけると『メイメイ』と音がなるのを!!




「…考えてました」
「うん」
「僕、文明開化、嫌です」
「私もだ妹子」
「飛鳥に生まれてよかった」
「同じ時代に巡り会えてよかったな、私達!」
「頬赤らめながらウインクしてくんな!この勘違い男が!!…アンタとの巡り会いはどうでもいいよ」
「……どうでも……おまえ、どうでもって…」
「とにかくですね、すき焼きは仕方がないのであきらめます」
「うむ」
「でも僕はバリバリ仏教徒ではないのですが…実家は神社も建ててるし」
「ぶー!仏教をもっと厚く敬えよ」
「いままだ仏教の勉強中なんです。なんたって外国からきた新しい教えですから。太子が積極的に取り入れてるんですよね」
「ああ、朝廷にも新しい風を吹き込まないとな、いままでは日本古来の神、ニギハヤヒミコトの末裔だといって朝廷を牛耳っていた物部氏がいたし、その影響はいまもある。この国のまだ混沌とした状況をな、仏の教えで一つに束ね、安定と平和をもたらしたいんだ」
「ふーん。なるほど、そうですね……僕も太子を支持していますよ」
「お妹がいれば百人力だ!さすが私のよ…」
「嫁じゃありませんから!」
「…え?じゃあ、夫?」
「どうしてそうやって結び付けたがるんです、悪い冗談は聞きませんよ」
「冗談じゃないのに…」
「なに部屋の隅っこにいっていじけてるんですか。戻ってきてください」
「そうする」
「ハァ…でもとにかく仏教の教えもいいですね」
「そうだろそうだろ」
「僕達は歴史に残る一ページを記しているのかも知れませんね」




そして時は流れ、中国は隋から唐へ。

かの有名な三蔵法師が孫悟空達と天竺への旅をしていた。

「抜け駆けしてんじゃねーぞ、この生臭さ坊主!」
「うきゃきゃきゃ、騙されたほうが悪いんじゃー!!」
「悟空、如意棒だ!」
「うおっしゃ、気合いをいれて…伸びまくってとがれ如意棒!!」
「ぎゃぁぁああ!!!!」




でもそれは、まだまだ先のお話だから。




「あ、太子みてください、僕のお茶」
「ん?」
「茶柱がたちました」
「ナイスだ妹子」


おしまい

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