Sakaeguti*shinooka

□屋上の昼休み
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休み時間の屋上に野球部のみんなで集まってみた。
そもそもの始まりは、ある部活帰りに田島がいいだしたこの一言。

屋上って気持ちいーんだぜ、みんないかないなんてもったいないよ。

「えー、でも風が強そうだろ?」
慎重な花井がそういうと、そんなこともねーよ、と田島はキョトンとして答えた。
「屋上にいったことあんの?花井」
「ここじゃあまだだな。でもオレの中学は屋上ってあんま居心地のいい場所じゃなかったからな。なんていうの?ビル風が吹いてんのかな、時々ゴオッと風がきてさー、二三度友達といったことあるんだけど、好きにはなれなかったなぁ」
すると田島は引いていた自転車をカシャカシャといわせて軽くはねた。
「じゃあ、おまえは西浦の屋上にいってみるんだな。あっこはいーぞ。マジで気持ちいい」
「ホント、だよっ」
田島に加勢するように後ろの方から三橋の声が飛んでくる。
「三橋、おまえもいったことあんの?」
と、花井が振り向いていうと、黄色いポワポワ頭がうなずいた。
「泉君も、ハマちゃんも!」
「オレら9組は最近屋上に行くのがシュウカンなんだぜー」
にこっ
笑顔を交わす田島と三橋。
「そうなの?」
と、それを聞いた阿部が隣をゆく泉に聞くと、まーな、という返事が返ってきた。そして泉が阿部の顔をみる。
「おまえらもきてみろよ。なかなかだぞ」

そんな訳で、翌日、天気もいいから試してみるかとばかり、部員全員で屋上に上ってみたのだった。

すこうしひんやりとする階段を上ってゆく。手には自分で作ったおにぎりと、購買で買ったから揚げ。そして黄緑色のラベルのついたお茶のペットボトル。ギイッと金属製のドアを開けると、そこには見慣れた顔が並んでいた。
栄口はまぶしそうにそれをみやる。それから軽く笑みを浮かべて彼はみんなのところに歩いてきた。
「集まるの早いな」
部員達はそれぞれ適当な位置に腰を落ち着けていた。同じクラスの巣山も先に来ている。みな手すりから一メートルくらい離れた場所に新聞紙を敷いて座っていた。
よっ、と栄口は沖と三橋のそばに腰をおろす。胡坐をかいている沖と、体育座りの三橋。三橋の横では阿部があおむけに寝そべっていた。そのあたりが端っこだったのだ。
「いらっしゃい」
沖が笑いながらいった。
「うん……ちょっと下、硬い、かな?」
栄口がコンクリートの上に直接敷いた新聞の上で、もぞもぞ座りなおしながらいった。
「ね。なんかこどもの頃の『ごっこ遊び』みたいでしょ」
「『ごっこ遊び』ってなんだっけ?」
沖の言葉を栄口が繰り返す。すると沖が、あれ、したことない?といってから、
「ほら、よく幼稚園とかでしなかった?役割分担を決めてさ、誰誰はお父さんとか、お母さんとかいって、こんなふうに地面になにか敷いてそこを家みたいにしてさ」
「ああ、おままごとか!」
栄口がポン、と手を打つ。けれど、「あれはよく女の子達がしてたけど、オレは参加しなかったなぁ」と笑ったので、ちょっと沖が顔を赤くした。
「え、でも、知らないうちに引き込まれたりしなかった?なんか勝手に役をつけられて…あれ、そんなことしてたのってオレだけ…?よ、よくお父さんとかお兄さんになってたんだけど…」
「あはは、それは沖が付き合いがいいからだよ。きっと女の子達が話しかけやすかったんでしょ」
栄口は軽くいったつもりだったが、なんとなく沖は気まずそうな表情になった。ゆさゆさと小さく身体をゆすりだす。風が吹いて、沖の白いシャツの襟がはためいた。
「オ、レもっ」
と、突然三橋が声を上げる。
「おままごと…したっ…ルリに参加しなさいっていわれて…近所の、子、と」
沖の気まずさを打ち消そうとして、三橋が一生懸命しゃべっているのがわかった。栄口もなんだかほっとする。
「オレはっ……ネコとか、犬とか…インコの役、だった」
「ペットかよ…」
三橋の隣で寝ている阿部があきれたようにつぶやく。すると三橋はパッと阿部のほうを向き、彼を見下ろしながら、
「お父さんも、した、よ!」
と強めの口調でいった。
「…ふうん」
阿部はたいして興味なさそうな口調だが、その唇に微笑みが浮かぶ。それから一応とばかりに、「面白かった?」と聞いてきた。
「え?」
「お父さん役」
「んと…んーと…あんまり。だって、座ってみんなが歩いてくるたびに『お帰り』っていうだけだったから」
阿部の眉がしかめられる。それから太陽をまぶしそうにみやると、そのまま目をつぶって、
「お父さん、メシー」とのっそり呟いた。
「自分のお弁当があるでしょ!…それになんでお父さんがご飯作るの?」
顔を赤くしていう三橋に「ばか、いまの時代は家事も平等なんだよ」とこれまた目をつぶったままで阿部がいう。そうだけど、といいかえしている三橋を横目に沖と栄口は顔を見合せて笑った。
他のみんなもそれぞれがなにか話ながら弁当を食べている。
「さ、オレも食べちゃお」
持ってきていたおにぎりを手に栄口は、それをつつんでいるラップをはがしだした。太陽の光を浴びてラップが虹色に輝く。とりだしたのはオカカおにぎり。今朝、眠い頭を無理やり起こして作ったものだった。食べながらお茶を飲む。ペットボトルを傾けると青空がみえた。なるほど、屋上ってなかなかいいな。
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