Mihasi*Abe
□日曜日の朝
1ページ/1ページ
朝、テーブルの上に、カチ、と白くて取っ手が金色の小さなカップが置かれた。
阿部はしばらくそれを神妙な顔でみる。
それから溜息を心のなかでついて、三橋をみた。
三橋は静かな顔でパンにバターを塗っている。
いただきます、をいおうとしていた阿部の口のなかで、すべての声は絡まってでてこない。
沈黙が続く。
とうとう三橋が小さな声で、いただきます、といった。
阿部はじっとカップをみつめている。
パンの端をちょっとだけかじった三橋が、
「嫌…だった」
といった。
ここで、嫌だった?と疑問で聞いてくるのではなくて、断定でいうところが彼らしいけれど悪いところ。
阿部はムッとした表情で、カップをつかむと、ごくごくと飲んだ。
それから三橋に向き直る。
「なあ、やっぱ直接言葉でいおうよ」
「でも、そういうのもありかもなっていったの、阿部君だ」
「いったけど!でも実際にされてみたらなんかやだ。かえって気恥ずかしい」
「言葉、のが、いい」
「いい」
「じゃ、いいます」
三橋が、ふう、と一息おいてからまっすぐな瞳を向けてきた。
「今夜、抱きたいです」
「そのいいかたも嫌だ!なんかオレ、受け身じゃんっ」
「ええ…そんなこといわれたって…」
三橋がくしゅんと眉をさげる。
朝食にコーヒーじゃなくてココアがでたら、お誘いの合図。
でもそれは、たった一日で消えた習慣だった。