Mihasi*Abe

□三橋ハピバ
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どうしてこんなことになったんだっけ

三橋は窒息しそうな気持ちで考えた。

こっちを見ている田島と花井が映画のスクリーンに映った人物のように見える。
田島の腕が動くのが、恐ろしくゆっくりと見えた。


「なに?」


この痛ましい沈黙を破ったのは阿部の声だった。

「あ、いや」
花井がかすれた声をだす。

「監督が、ミーティングしたいから早く来いって・・・」
「わかった」

阿部は自分にかぶさっている三橋に告げる。

「ボタン、ちゃんと戻して」





田島と花井はなにもいわずにノロノロと歩いていった。どちらも声をださない。ただ、先ほどの光景を思い返しているだけだ。

三橋の震える指はなかなか阿部のシャツのボタンを元には戻せなかった。それでも阿部はそれを見つめるだけで、動こうともしない。それから三橋の肩越しにこちらをみて、

「悪いけど、先に行っててくんない?すぐ追いかけるから」

といった。花井は黙ってうなずいた。そして二人は野球の道具が入っている倉庫を後にしたのだ。

百枝はすでにみんなを集めて待っていた。
田島と花井が戻ってくると怪訝な顔を向けてくる。

「三橋君と阿部君は?」
「あ、あの・・・」
花井が言葉に詰まった。すると、
「あいつらはまた投球のことでけんかしてました。でももうおさまったんで、三橋が顔洗ったらすぐ来ます」
田島の言葉に、花井はこくこくとうなずいた。
「そう。そっか、またなんかもめたのか」
モモカンが苦笑いをする。みんなもいつものことだといわんばかりにお互いをみやった。
「じゃ、いいや、始めちゃいましょう」
百枝は号令をかけ、ミーティングが始まった。隣同士に座った花井と田島は、こっそりお互いをみやって、この場がうまくおさまったことに安堵した。
よくわからないけど、庇ってやらなくちゃいけない。二人はとっさにそう思ったのだ。




「ごめんね、ごめんねっ」

倉庫では三橋がいつも以上に必死な声で阿部に謝り続けていた。
「いいって」
「でも・・・」
「別に、もういいじゃん」
「だけど、オレっ」
「・・・じゃあ、どうしてほしいわけ?」

微妙にトーンが変わった阿部の声に三橋はびくりとする。
「もういいっていってるじゃん。他にどうしてほしいんだよ?オレが文句をいえばいいわけ?おまえのこと殴ればいいのかよ?」
「あ・・・う・・・」
阿部は上気した顔を三橋に向ける。
「・・・阿部君が、オレを 殴ればいい・・・・」
「へえ」
阿部が立ち上がりそうになった。三橋は反射的に頭を抱える。

「ひとついっておく。おまえのそういう、自分で自分のことを相手に任せる癖は直した方がいいぞ。いっちゃ悪いけどその姿勢がいままでイジメを招いていたんだ。おまえ責任とらないのかよ、人のこと押し倒しといて、殴れとかさ。無責任なんだよ」

三橋は固まってしばしのあいだ、下をみつめた。それからようやく顔を上げる。
「ごめ・・・じゃ、なくてっ、あの、オレ  つい」
「・・・も、いーよ。ほら、早くいこうぜ」
阿部は今度こそ立ち上がって歩き出した。
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