Mihasi*Abe

□こころひかれる
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温かい春風を感じる今日この頃。

西浦高校の休み時間、三橋と阿部は校内の桜を咲かす植え込みのそばにいた。

どうもテンションが高くなっている不審な三橋を廊下でみかけ、阿部がここまで連れてきたのだ。

「どうした? 悩み事あるのか?」

阿部の言葉に、あからさまに瞳をそらす三橋。

「おい! なんかあんのならちゃんといえ! いわなきゃなんにもなんねーんだぞ!? お前、ひとりで考え込むとたいていよくねえ方に向かうんだから」
「よくない ほう」
「そう。とにかくなんか気になることがあるんなら人にいえ! べつに聞くぶんには全然かまわねーんだから、こっちは! そうやってひとりで抱えられてる方が辛いんだよ」
「……辛い。 阿部くん、が?」
「そう!」
「でも……」

決心がつかないように下を向く三橋に阿部は血圧が上がってくるのがわかる。
どうしていつまでたっても心を開かねえんだよ。
そんなに信頼できねえのかよ。

つーか、なに? オレじゃ安心して相談できないってこと?

「三橋!」

阿部の強めの口調に三橋が慌てて顔をあげる。

「オレ、いっつもお前と友達になりたいって思ってるのに、お前はそうは思わねーのかよ」
「…え?」

阿部の言葉に三橋が驚いた顔になった。
その頬がわずかに上気したのだが、阿部はそれには気づかない。

「お前にとってオレってなんなんだよ? サインをくれるだけの道具? お前、そう思ってんのか?」

阿部の表情が険しくなる。
それをみて三橋の方が、素早く冷静さを取り戻した。
人とは不思議なもので、自分が不安になってグズグズやっているときに、相手の方がもっと不安定な様子になると、途端に理性をとりもどしたりする。

(阿部君が、自分のこと 道具 とかいいだしたら まずい)

三橋は瞳をキョドキョドっと動かしてから、ぐっと腹に力を入れて阿部をみかえした。

「違う! オレも…… 友達に なり たい」
「三橋…」
「ていうか も トモダチ だ…よ」

阿部の顔にホッとした喜びの表情が浮かんだ。
だが、それが三橋の胸をズキリと痛める。

「けど 違うんだ オレ もっと…!」
「え?」

ふいに三橋の顔にパアッとと赤みがさす。
明らかに三橋に興奮スイッチが入った。

「でもっ オレっは もっと、すき でっ」
「三橋…?」
「ずっと 阿部君のこと 考えて、て。 ほかのこと、考えなきゃって でも ダメで」
「あの…」
「野球帽 ツバ、後ろ向きとか 可愛くて 苦し。 防具のマスクになって つけて ほし とか。いっそもう 防具にっ…」
「おま…なにいって…」
「白いシャツ着て! 校内歩いてるとか!! 反則っ」
「いや、シャツ着て学校に来るのはすげー普通のことじゃね?」
「みんなオシャレしてるのに、いっつもシャツと黒いズボンっ」
「悪かったな。なに着ていいかわかんねーんだよ…」
「捕手のくせして、普通の高校生みたいに、授業 受けて」
「いや、授業でなかったらヤバいだろ」
「国語の時間とか、あてられたら、大人しく音読とかしちゃうんだっ」
「無駄に教師に逆らってどうすんだよ」
「オレっ おんなじ教室じゃないから、聞けない!!」
「………」
「みんなが、阿部君の声、聞いてるんだって思ったら 胸苦しくて…」
「いってる意味がよく……」
「夜も! 阿部君 夢にでてくるし」
「はあ…」
「も、妄想しちゃったから いっぱい。 夢にはもう みちゃダメッて思ったのに…」
「もうそう…?」
「夢の中じゃ都合よくて オレのこと 愛してるとかっ」
「…………は?」
「現実 違う のに   なんで そんな 優しいこといって……うう、うっ…うー」
「なんかオレに怒ってる…?」
「違う オレが 悪いんだあ…」
「はあ…」
「目が覚めたら ムセっ ムセ…して」
(…なに? むせ? ……あの…いや、まさか)
「もう 身体がオレのいうこと きかな…オレ どし こんな 変な きぶ…」
(いうな! それ以上、なにもいうなー!!!)
「……えっちな きぶ…」
「いうなっていったろーがあああ!!」

ビクッ

「ご ごめ…」

必死で三橋の暴走を制した阿部は、いろいろなダメージを受けていて、頬を真っ赤に染めて肩で息をしている。

「も、いいから…。 やめてよ」

感情が高ぶったせいか、大きな瞳がうるんだようにみえる。

その瞬間、三橋の視界に映る阿部がその輝きを増した。
そのあまりの輝きに三橋はすべてを忘れてそれに見入る。

「…っつ」

阿部は三橋の強い視線に、ふいに釘付けになった。
ピタリと自分に合わせられた目は、普段の三橋からは考えられないほどの光をもっている。





「あべくん やっぱ だいすき」



行き詰まる沈黙のあと、つぶやかれたその言葉に、阿部はあきらめてパタリと倒れた。

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