Mihasi*Abe

□花火の宵に
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二人で遠い町の旅館にきた。
二泊三日のデート旅行だ。

用を済ませて部屋に戻ったオレは、そっと入口の扉を開けてなかをのぞいた。
みると、部屋のなかにはすでに甚平に着替えて、ぼんやりオレを待つように窓の外を眺めている阿部くんの姿。
その遠くをみつめる横顔や、いつにない着物姿にオレの鼓動が速まりだす。

落ち着いて二人で過ごせるように、心の準備をしてきたのに…。

オレに気がつくと、阿部くんが「よう」といって軽く笑う。

「見てみろ、外。すげーいい景色」

隣にいくと、墨で染めたように夜にとけ込む山の輪郭。その下には赤や緑の祭りの灯りがゆれていて、にぎやかな人の声が遠くから聞こえてくる。

「また一年たったな」

つぶやくように阿部くんの言葉。

「え?」
「…去年と同じに、お前と過ごせて、なんかすげえなって思って」

そういわれたオレは、去年の夏を思いだす。あのときは近所の川原を一緒に歩いていた。
高校、最後の夏。
オレが好きだといったとき、阿部くんは驚いた顔をして固まったっけ。そのあとは今考えると笑ってしまうくらい、二人してちぐはぐな言葉を重ねあった。そんなことをしてたら、突然、夏の空に花火が咲いたんだ。
少し遠くだったけど、どこかの町内会が打ち上げた花火だった。


「また今年も、お前と見んじゃん? 花火」

阿部くんの言葉でオレは我に返る。そして目の前にあった笑顔に突然全身が震えて、阿部くんを後ろから抱きしめた。

「おい、三橋!?」

阿部くんがちょっと焦った声をだしたけど、構わず強く抱きしめる。阿部くんの身体の熱を感じると、そのままオレの身体も熱くなってきた。

「おまっ、胸…」
「え…」
「すげードキドキしてるけど…大丈夫か?」
「うん…」

うん、とはいったけど頭のなかでは本当にそう思っているのかわからない。もう、なんだかわからなくなってくる。

「お前…本当に大丈夫か? このあと祭りにいける? 胸が背中にあたってっからすげえ心臓が速く打ってんのわかるんだけど…」
「だいじょうぶ」
「大丈夫って…。あの、それから…さ」
「うん…」
「胸もだけど…なんか下の方もあたってるみたいなんだけど…」
「え…?」
「オレの、背中っつーか、腰のへん…」
「えっ??」

オレはバッと身体を離して自分の身体を見下ろした。確かに、確かにいつもと形状が違う。

「ごめっ! オレっ、ちゃんといま、出してきたのにっ…」
「バッ…! ちょっと待っててくれって、そんなことしに行ってたのかよ!!」



こうして、オレたちの二度目の夏の花火は、ガラス窓越しにみることになった。

オレたちの熱くて永い夏は、まだ、終わらない。

end (12.8.8)

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