Jewelry**

□フリー小説(三阿)
1ページ/1ページ

【11月22日】


「ふひ」

息がもれたようないつもの変な笑い声。


三橋は、なんでこうも服を脱ぐのがヘタなんだろう。
アンダーシャツが頭やら腕に引っ掛かって、もがいてる。

「何笑ってンの?」

俺は普通に聴いたのに、三橋はビクッと狼狽える──モタついてっから怒られるって思った?


怒ンねェよ、イマサラ。

イライラはすっけどな。


やっと服から解放された三橋の頭。その表情は青くなったり赤くなったりせわしない……しかも、視線はこっち見ないでさ迷うし。

「あ、ぅ…と……」

何度も三橋の目線がチラリと行き着くのは──壁にかけられたカレンダー。

「三橋、何か予定とかあんの?」

この日曜日は勤労感謝の日──祭日で、次の月曜日は振替休日。学校は休み……まぁ、練習試合とか入ってっけど。

「ちがっ、…あ、あの、ね──いい、ふうふ。なんだ、よ」

「は? 何が?」

11月22日が語呂合わせで『いい夫婦の日』なんだとニュースで言ってた。と、袖から腕が抜けきらないままの三橋が言う。

「ああ、そーいや…ンなこと言ってたな」
「あの、ねっ…オレ……1と1と、2と2で、いい夫婦ダカラ…」

わかったから早く脱げ、とやや強引に三橋に引っ掛かってる服の裾を引っ張る。

あらわになる三橋の身体。
細いクセに、決して軟弱じゃない肩の線とか、あんまり日に焼けない質の健康的なキメの細かい白い肌にドキリとする。

「あ、リが、とうっ」
「……どーいたしまして…で、1と2が、何?」

つい、目を奪われたまま身体をたどってしまいそうになり、三橋にさっきの言葉の先を促してやる。

俺の心拍数が上がってる事に気付かず、三橋は落ち着かない視線のまま続ける。

「う、ぁ…っ、あの…オレが『1』で、阿部くん、『2』…だから、っ……」
「……うん」

『1』と『2』がいっぱいで…オレと阿部くんが並んでるみたいで、うれしい。と、照れているのか、怯えているのかわかんねェ態度でぽつぽつと言う。

「でね、バッテリー…は……夫婦みたいって、よくゆうから……オレ…っ、」

三橋が顔を上げる。
朱に染まった頬と決意した表情。
瞳ん中に、まっすぐに俺をとらえたまんま



「オレ…っ、阿部くんと、ずっといっしょに…誰よりも『いい夫婦』に、なりたい、んだ…っ」



まっすぐな


あいかわらず……こーいう時だけは、ちゃんと見てんだよなぁ……


ゆっくりと顔を寄せて、目を伏せて──額をくっ付ける。
三橋の「うぉ…」って、変な声。


……今、コイツの言っている『いい夫婦』は──きっと野球の話。


わかってる。
三橋の頭の中で一番最初に書かれている項目は『ピッチャー』……そんでもって、コイツは気の利いたうまい言い回しや、ひねったコトが言えるヤツじゃねェもん。


でも、今、この状況でそれを言うのか、この天然。


ベッドのスプリングが小さく軋む音をたてる。

「あべ、くん…?」

三橋の声に、俺はまぶたをあける。うかがうような三橋の顔が目の前にあるのを確かめてから……口の端を吊り上げる。






「……あのさ、三橋、ソレってプロポーズ?」




そう言った時の俺の顔は──きっと心底、意地の悪い黒い笑顔だったと思う。


「…ぅ? んと?……ぁえ、ぅえぇっ!?」


三橋は一瞬呆気にとられたあと、自分の言った『言葉の意味』に気付いて、頭から湯気が出るくらい真っ赤になっていく。
重ねたまんまのおでこも熱い。



ああ、かわいい。
誰かに見せびらかしたい。



いや、もったいねェから見せねェケド。

つか、『こーゆー三橋』がかわいいなんて思うあたり、相当重症だぞ。俺。

大笑いしたいのを堪えていたら、三橋に肩を両手で掴まれる。
むき出しの肩に触れる、ゴツゴツした硬くて強い手と、



「お、ぉ、オレ、それでもイイ…っよ、っ」



まっすぐに……俺をとらえたまんまの──強いつよい、その瞳。

「……バーカ」

三橋の額を人差し指で軽く弾く。



そして──額をくっ付け合わせていた時よりも近づいていく距離。



今はまだ遠い幻みたいな明日のコトと

すぐそこに来ている眠りの中で見るゆめ。



それから、



「その答えは……ちゃんと二人で3年間『いい夫婦』になれたら…な」

「──うん!」





ゆめと明日の狭間で

一番近くで触れている、今のキミの体温。



end

2008.11.22 かすがはるひ

*********
混ぜるな危険。様にてみはべチャット記念として配布されていたフリー小説を頂いて参りました。
あの………私は参加出来てなかったのですが…(不参加のくせにもらってきたのかよー!)
だって…みはべの神様が舞い降りたんだもんっ
三橋に惹きつけられてどうしようもない阿部さんがもうもう素敵です!三橋、無意識のうちにそんなにフェロモn…じゃなくて!いい夫婦の日を気にしている三橋の言葉や動きがもう(悦)
三橋、頑張ってねいい夫になってね。
と、人様の作品にあれこれ勝手なことをいって失礼致しましたっ(>△<)
はるひさん、素敵なみはべをこれからもたくさん拝見させてください!!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ