Jewelry**

□フリー小説(水千)
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[ピンクのうさぎ(水篠)]

「渡したいものあるんだ」

それはけしてウソなんかじゃなかった。




今まで何度夢見たことだろう。愛しい愛しい篠岡が今俺の部屋にいる。だけど夢の中ではこんな風になることはなかった。
部屋の中央に置かれた机を挟んで、篠岡が座っている。だけど俺から見えるのは線の細い背中だけ。


そんなつもりは、少し、あった。

付き合い初めて2ヵ月、初めて篠岡を家によんで、パステルカラーに花柄の散ったかわいいワンピースにまずやられて、俺の部屋に通して、母さんが作ったシフォンケーキ食べたあとに見せたすげーかわいい笑顔にみとれて。

今家に2人っきりだ、てことを思いだした。

そこから先はよく覚えていない。ただ気づいた時にはいつもは服に隠れているはずの白い肌に顔をうずめていた。口づけたままだんだんとその柔らかい白を登っていくと、舌先にほんの少しの塩辛さを感じて顔を上げる。

篠岡は、声をあげることなくただ静かに泣いていた。

それを見た時ガツンと鈍器で殴られたような衝撃を感じて、ようやく俺は自分が篠岡を押し倒していることに気づいたのだった。






俺から解放された篠岡は、帰ることも俺をぶつこともしなかった。
ただ、少し離れた位置で俺の顔は見ないようにして座っている。
まるで何事もなかったかのように、机の上のケーキと紅茶はただそこにある。けれど綺麗にセットされていた柔らかい髪の崩れているのと、少しよれた花柄が俺のしたことを証明していた。


俺バカだ。
一番大切な子、泣かした。



「…ねえ」

ずっと続いていた沈黙を先に破ったのは意外にも彼女からだった。
弾かれたように床をジッと見ていた目線を上げる。そこには目が少しだけ赤い、篠岡の顔があった。

「あ、…」

謝ろうとしても出てきたのはかすれた情けない音だけで、そのままギュッと口を結んだ。


「水谷君、」
「……」
「渡したいものってなにかな」

泣いててもわからないよ?


「……」

パーカーの袖で汚い顔を拭ってクローゼットから取り出したものを篠岡に渡す。

「これ…」
「…栄口とゲーセン行った時に取れて、かわいいから、篠岡にあげたいなって思って……」


しばらくそれを撫でたあと、篠岡はゆっくりと小さな唇を開いた。


「文貴君」


「…!」







「ありがとう」


胸の中のうさぎのぬいぐるみの前足を振りながら、篠岡は笑ってくれた。



「しのーかあ…」
「なあに?」
「ごめんな…、ごめん、ごめん…」
「あーあ、文貴君、顔クシャクシャだよ」



あやすように、俺の背にまわされた細い手はぬいぐるみもずっと優しくて柔らかくて。




「うさぎさんに免じて許してあげる」




俺はまた溢れてきた涙を隠そうと、ピンク色のそれに顔をうずめた。

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素敵サイト『アフォリズム』のなふさんから頂いてきました、二万打フリーssです!水篠、水篠、二人とも可愛いっ(>ヮ<)
文貴君が暴走しても、その柔らかい雰囲気がなくならないなんて、さすが文貴ですね。穏やかななかにチクリとするものを埋め込んだお話なのに最後までシフォンケーキの甘い香りを感じてしまいました。なふさんの書かれるものはさりげなく深いものばかりで、読んでいてホゥッ(///)となります。
千代ちゃんは心のおっきな子だと私も思います…!
でも、千代ちゃんのワンピースと一緒にケーキを食べた時の笑顔をみたら、水谷がボウッとなってしまう気持ちすごくわかります!!!うん…。
シフォンケーキは文貴ママお手製なのと、うさぎさんは栄口ととったというところにもキュンとしました(笑)
水谷と千代ちゃんが二人でいるところを想像すると、ふわふわ〜と幸せになります。
なふさん、素敵な小説をありがとうございましたvvv

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