目の前には青い海が広がっています。白い砂浜は大勢の人で賑わっています。
ぎらぎらと輝く太陽、程良く日焼けしたビキニの女の子、浮き輪を抱えて走り回る子供たち。どこを見ても夏を満喫している雰囲気で溢れかえっています。


…なのにだ。


「おう、おめえはあのびきにとやらを着ねえのか?」
「…ノリノリだね、あんた。」


明日は日曜日だし、小十郎、海に行かない?と誘ったのが昨日の夜のこと。魚でも捕りに行くのかと大真面目な顔で尋ねた彼に軽く吹き出しつつ、海水浴に行くのだと雑誌を見せたのがいけなかった。
実はちょっとした悪戯のつもりだったのだ。戦国時代なんて言う、いかにも女性の露出に慣れていません、な世界から来たこの強面はどんな反応を見せてくれるのか。笑いを堪えながら、派手なビキニでこれ以上出せるとこがないとでも言わんばかりの女性の写真を広げた。


「ほう、この赤いぱんつとぶらじゃあとやらを着けてる娘、いい尻してるじゃあねえか。」
「…へ?」
「こっちの娘は小ぶりだが胸の形がいいな。将来が楽しみだ。」
「…あの、片倉さん?」

まさかこの男があんなにも水着(しかもビキニ)に食いつくとは。早朝、嬉々とした小十郎に叩き起こされ、私は二人で近くの海水浴場へと(半ば無理矢理)足を運んだのだった。…こいつ、こんなに変態だったのか。そんな私の心情を知ってか知らずか、小十郎はにやりと口端をつり上げた。強面がさらにすごいことになっている。

「前も言ったが、この時代の女ってのはやけに積極的だな。」
「私としては、今の小十郎がすっごく予想外でついていけない。」

考えても無駄だ。せっかく来たんだから楽しまなくちゃだめだよね。少し離れたところで女の子が父親にかき氷をねだっている。いいなあ。買いに行きたいけれど、この変態男をひとりにするのは非常に心配だ。
はあ、とため息をひとつ。こんなことなら小十郎に海に行こうなんて軽々しく言わなければよかった。まあ、終わってしまったことはしょうがない。
ひとり物思いにふけっていると、後ろのほうがきゃあきゃあと騒がしくなった。

「ひとりで海ですかあ?よかったら、一緒に遊びませんか?」
「うわあ、すっごい鍛えてるんですねえ。かっこいい!!」

振り返ってみると、無駄に体のでかい変態男は二人のかわいらしい女の子に囲まれているではないか(しかも片方は黒のビキニだ)。小十郎もまんざらではないようで、笑顔で返している。この変態が!!
まあたしかに強面ではあるが整った顔立ちをしている。もし(本当にもしもの話だ)小十郎にその気がなかったとしても、周りが放っておかないだろう。
…困ったように狼狽えてくれれば少しは面白味もあるのに、あの男はさも当然のように女の子たちと雑談を楽しんでいる。正直、つまらない。
あとで何だかんだ面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。私は小十郎に声をかけようと踵を返した。返そうとした。

「お姉さん、こんな所でひとりー?彼氏にフられちゃったの?俺らで慰めてあげようか?」
「一緒に遊ぼーよ。」

見知らぬ男たちにがっちりと肩をつかまれた。見た感じ、ああ確かにと言いたくなるくらい典型的な外見をしている。私が絡まれてどうするのよ。
ちょっとばかり期待を込めて小十郎のほうに目をやるも、あの男は私にも気づかず女の子たちに腕やら胸やらを触らせている。彼女たちはきゃあきゃあと再び盛り上がっていた。あれ、私もう諦めなきゃダメなパターン?

「ん?アイツ連れなの?…ふーん、あんな奴より俺らとの方が絶対楽しいって。」
「あっちはあっちで楽しんでるみたいだしよ、俺らも楽しもうぜ。」

肩に腕を回され、体を引き寄せられた。ぴったりと密着した互いの肌が気持ち悪い。
ああ、私このままコイツらの好きなようにされちゃうのかな。







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