・オリジナル・町田 ろく

□とりなくとりなく
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ある深い深い山奥に……



とりなくとりなく



〈昔、そう昔。二つの頭を持つ鳥がおりました。上の頭はいつも美味しいものばかり食べていました。しかし下の頭は食べ残ししか食べることしか出来ませんでした。
ある時下の頭は上の頭に言いました。〉


鳥なく鳥鳴く



あるところにとてもとても奇妙な生き物がいた。怪物のようであったし人のようでもあった。
あるいは、人に棄てられた古代神のようであった。何が奇妙なのかと言うと、人間の体に羽が、翼があった。さらに頭が二つあった。そしてさらにそのなき声は非常に奇妙な声だった。
頭は常に上を向いたものといつも俯いたように下を向いている頭とがあった。上の頭は人里に下りてはよく人を食べる癖があった。しかし下の頭は人間はおろか、鳥や獣、魚すら食べるのを嫌って食事は草の芽や木の実と粗末だった。そして下の頭は、上の頭が人を喰うのが嫌で嫌で仕方がなかった。何故なら頭は二つあって考えがそれぞれ違っても、体は一つだったのだから。


〈下の頭は言いました。
たまには自分も美味しいものが食べたい、と。
その言葉に上の頭はこう返しました。
体は一つなのだからどちらが食べても変わらない。腹に入るのは同じだ、と。
下の頭は上の頭の傲慢さ咎めようと思って、〉


ぴろろろろーと奇妙ななき声が響き渡っていた。

とりなくとりなく



下の頭は上の頭に言った。人間を食べるのをやめろ、と。しかし上の頭は一向にやめなかった。
それどころか人里に下りていって人間を次々に平らげていく。腹に重みが増していくのを感じて下の頭はやめてくれっとないた。
今思えばただの不幸だったのかもしれない。


〈上の頭の傲慢さを諌めようと思って下の頭は毒茸を食べて、その鳥は二つの頭は死んでしまいました。〉


そして下の頭は、遂には毒茸を口にした。頭は二つでも体は一つ。死ぬとき二つの頭は、






つぎうまれかわるときもまたあおう。でもつぎはべつべつにうまれてこよう








と約束した。
その四つの目はうっすら涙を浮かべていた。

そうして『彼』は息絶えた。
それを見ていた一人の神さまがいた。炎のように赤い髪、赤い眼の青年だった。青年は『彼』見ていった。

「彼(か)の名は善か悪か」

しかし返事はない。
赤い色をした神は自嘲気味に

「違うな、俺たちが善悪を決めるんじゃない。所詮この世に善も悪もないのかもな」

と言った。そうして青年は『彼』に背を向けて歩き出した。
深い深い森のなか、生い茂る木々の間からきらきらと木漏れ日が降り注いでいた。そして何処からかぴろろろーと奇妙ななき声が響き渡っていた。

鳥なく鳥鳴く



鳥泣く鳥啼く




END



後書きと書いて反省文。

久しぶりに書いたアスラ。流血ではないね。久しぶりすぎてアスラってこんなだっけ〜とか自分で書いてて思った。アンダーテイカーにも煮詰まり、周囲の喧騒に気がどうにかなりそうになって書いた。人間追い詰められるときっとなんでもできる!
ネタは微妙にマイゴッドファーザーから。何が釈迦の話で二つ頭の鳥の話を聞いて起こした。


 

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