・オリジナル・町田 ろく

□−−鬼女−−
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  鬼女

   ある時アスラは一夜の宿を求めた。
   あばら屋に住む老婆が心よく泊めてくれた。
   日はすっかり沈んでいて周りは暗かった。
   飯を作ってやるから待っていろと、老婆はアスラに言った。
   アスラがいろりの火にあたり、うつらうつらしている時、老婆は後ろからアスラの肩を鉈で切りかかった。
   そして腹を刺した。
   鮮血が飛び散り、老婆にかかり、アスラの着物を濡らした。

     何度も何度も鉈を振りおろした。
    その度に肉の潰れる音がした。
    血が飛び散った。
    振りおろす振動で動かない肢体は血の海で細かく動いた。

   女がいた。飢饉で幼い娘を売ることにした。
   女は売られていく娘に作ってやった御守りを持たせることにした。
   肌身離さず持つように言い、首に下げてやった。
   そうして母と娘は離れ離れになった。
    月日はたち、女はその土地の領主の子供の乳母をしていた。
   女は次第に子供に情が移っていった。
   その子供、生まれつき目が悪かった。
   ある時、妾腹の肝を食べるとどんな病も治るときく。
   女はその子供に目を治してやると約束して、妾腹の子を探すようになった。
   が、そう安易に見つかるわけもなく数年が過ぎた。
   女は老婆になっていた。
    ある日、旅の男と女が、老婆の家にやってきて、一夜の宿を求めた。
   旅の女は妊婦だった。
    旅の理由を聞けば妾腹ちか。
   夜、旅の女は産気づいた。
   老婆は連れの男を外へ追い払った。
   長い間探し求めていた妾腹の子供。
   老婆は台所から包丁を持ち出し、旅の女に向かった。
   女は逃げだそうとするが、身重の体で逃げれるわけもなく、老婆の鈍色の刃が旅の女の腹に向かった。
    老婆は旅の女の腹をかっ裂いた。
   女の懐から何かがこぼれた。
   それは老婆が売られていった娘に渡した、御守りだった。

  −−生き別れになってしまった里の母に一目孫の顔を見せようと・・・・−−

   死の間際、そう言って女は絶命した。
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