御話

□向日葵
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<向日葵>




『寒くなったら鍋と決まっているだろう!!』と言う弦一郎の意味のない根拠から今日の夕餉は決まった。

つい先日、弦一郎のおばさんから大きな白菜を玉で戴いたものもまだ二分一は残っているし、近くのスーパーが肉の特売日だ。

弦一郎と買い物に行くと肉を買い過ぎてしまう悪い傾向がある。

「俺はそんなに肉は食べないぞ」

「蓮二が食べんでも俺が食べたいのだ」

残さんから安心しろ。と妙な自信を持ちながらふんぞり返られると反論する気も失せる。

白菜以外の野菜や魚を買い、帰り道にある馴染みの酒屋で取り寄せていた向日葵酒を買った。

「向日葵の酒とは珍しいな」

「後味がすっきりとしていて鍋にも合うらしい。明日も休みなのだから多少羽目を外しても構うまい」

「そうだな」

男子厨房に入るべからずと言いそうな雰囲気を持つ弦一郎だが、実際は正反対だ。

『自分で食す物の調理前の状態や調理を知らなくてはならんと母に口酸っぱく言われていたからな』

包丁捌きも料理の段取りの手際もなかなか堂に入ったものだ。

弦一郎の家から譲り受けた土鍋は年季が入っていて、水を張って火にかけているだけでじわりと芳りたってくる。

味を足し、たっぷりの具材を入れて蓋をする。

くつくつと音を立てる鍋の様子見を弦一郎に任せて、俺は買ってきた向日葵酒を開ける。

今は割らずにそのまま飲む事にする。いや、弦一郎は鍋を食べながら飲むと量をいってしまうから割った方がいいかも知れない。

しかし旨い酒は割らずに飲みたい自らの欲に負け杯と酒を持ち戻ると、ちょうど鍋も頃合いだったようだ。

『いただきます』

今年最初の鍋は旨く、つい箸が進んでしまう。選んだ向日葵酒も我ながら間違いではなかったと嬉しい限りだ。

しかし先程から弦一郎の食を観察していたが、全く困った奴だ。

「弦一郎。お前が肉が好きなのは重々知っているが食のバランスが悪すぎる。野菜・野菜・肉・魚・野菜で食え」

そう突っ込むと鍋に伸びていた弦一郎の箸がビクッと止まる。

「せめて野菜・肉・魚・肉にしてはくれんか?」

「肥えるぞ」

「………そんな事はあるまい」

「俺たちは学生の時よりも運動量は減り、カロリー消費率も低下し代謝も落ちているのだから……待て、やはり野菜は食わなくてもいい。無理強いをして悪かったな」
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