シリーズ小説

□桜嵐
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*小さな決意*

 「…っつ」

 その日千也は、うなされて目を覚ました。
 瞳を開いても真っ暗な視界。
 やっと天井が見えるかというくらいで、それ以外には千也の浅い呼吸音しか存在しなかった。

 「くそ、」

 千也は自分の見た夢に自分に舌打ちをした。

 ―なんで、あんな縁起の悪い夢なんかを…。

 強く目をつぶり、息を止め、また吐き出す。
 夢の中でも感じてしまった、あの絶望的な喪失感が体から抜けおちない。
 両手で顔を隠し振り払おうとしても、喪失感はじわじわと広がるばかりだった。
 思考を切り替えようと千也は枕元にあった時計を見る。ちょうど4時をさす時計をみて、眉をしかめた。
 千也は朝食を作る為に朝6時前にはおきている。
 今から寝ても、2時間。
 ならばいっそのことおきてしまおうかと考えて自分が意外と眠いことに気がついた。
 でも、この広いベッドが落ち着かなくて喪失感をあおっているような気がしてならなくて、ここでは寝たくなかった。枕に顔をうずめてみても、体をずらすとすぐにひやりとしたシーツが肌をかすめ、寂しい気分をあおる。しばらく目をつむりその感覚に耐えてはみたが、やはり無理だった。諦めて起きあがった千也はレシピ集を片手に自分の部屋となって日の浅いそこからパタパタと出て行った。

 千也が向かったのは、リビングだった。
 キッチンの照明だけつけて、今日の朝食を決めるためにレシピに目を通す。
 これで弁当を作ることになっていたらもっと大変だろうなと思いながら、そんな事にはならなかったことに安堵のため息をついた。
 朝食ならそんなにたくさん作らなくてもいいし、ボリュームがなくてもいいよな、と思った千也は2,3品に目星をつけて本を閉じ、リビングを向いているカウンターの隅にある時計を見ると、4時半だった。

 「ちょっとくらい…いっか」

 レシピ集を時計の隣に置き、キッチンを出てリビングにあるソファへと向かう千也の足はいつも以上にすり足で、眠気で体が動かないことを示していた。
 ソファに倒れ込み、念のため携帯のアラームを設定すると、千也小さく丸まってまぶたをおろす。不自由なくらいの狭さが、千也に安心感を与え、睡魔が千也を包んだ。
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