フルメタ
□キャンプ
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「何でこうなるのよおぉ!」
小さな洞窟内に響きわたるかなめの嘆き。
「しょうがないよかなちゃん。山の天気は変わりやすいんだから」
びしょ濡れでいつもより垂れ下がってしまったおさげを解きながら恭子は苦笑した。
かなめはがっくりと肩を落とし深いため息をついた。
山間部に出かける時点で
「今日明日は晴れるでしょう」
なんて言っていた天気予報などあてにならないと解ってはいたのだが
なんだかおもちゃを取り上げられたみたいで面白くない。
バッグからタオルを取り出しながらお蓮は心配そうに
「男の子達は大丈夫でしょうか」
と呟いたが
「大丈夫じゃない?特に相良なんか雷に当たったって死にゃしないわよ」
とけらけらと笑う瑞希の言葉に、それもそうかと女子組は荷物から新しく出した服に着替え始めた。
夏休みに入り、せっかくだからキャンプに行こうと恭子が計画し、昔のいつものメンツで集まった。
丁度皆休みを取れたので、懐かしくバカをやりたくなったのだ。
何だかんだとテントを張り、居住地区が完成すると
夕飯用の魚を男子が釣りに行った。
しかし30分ほどすると静かだった空は急に荒れ始めすぐに嵐になってしまった。
あまりの風の強さにテントに居るのは危険と判断し近くに宗介が見つけてあった横穴の洞窟に女子は荷物ごと逃げ込んだわけだが…
「あいつら帰ってこないわね…」
髪を拭きながら入り口に目を向ける女子達。
「遅いねぇ…三人とも…」
釣りに出掛けた宗介・風間・小野Dがなかなか帰ってこないのだ。
あまり遠くに行ってないはずなのだが…
「とりあえず体冷えちゃうから焚き火でもしてよ」
入り口付近に丁度良い窪みがありそこに適当に濡れていない薪を入れる。
「お握り焼いちゃおうか〜」
「いいね〜」
だんだん暖かくなり、安心してきたのか
なんだかんだと女の子達はこの状況を楽しんでいるようだった。
一方男子は…
「風間!どうだ?」
「相良君!女子が居ないよ〜」
急に降り出した雨に荷物を抱えテントに戻ったはずが、
女子の姿はなく、それどころかテントも半壊している。
「相良!荷物は残ってねえぞ」
素早く確認する小野D
「洞窟に避難したのかもしれんな。いくぞ」
「テントどうすんだ?」
「捨てていく。今は一刻も早く合流すべきだ。」
「怒られないかな〜」
「後で天気良くなったら見に来ようぜ」
悪い視界の中びしょ濡れの三人は釣り道具を背負い洞窟に向かった。
「うぅ…びしょ濡れだ…」
洞窟の入り口で一度荷物を下ろしきちんと整理しながら風間は情けない声を出した。
「女子は濡れなかったかなぁ?」
奥からは暖かい焚き火の光がゆらゆらと揺れている。
「焚き火か〜皆無事みたいだね」
「つか寒ぃよな〜早く俺もたき火に当たりてぇ」
風間と小野Dは安心したように笑った。
「そうだな。罠はないようだ。」
「そりゃそうでしょ」
「風間油断はいけない。」
「ほら相良くん、千鳥さん待ってるよ」
はいはいと苦笑し、放っておくといつまでも相良軍曹(自称)による戦場の悲惨さを延々と講義されるので、風間は早々に伝家の宝刀、鶴の一声、千鳥の名を出したのだった。
「む」
効果覿面。不可視の耳としっぽを振りたき火の方へと足を早めていった。
奥に着くとどうやら女子達は待ちくたびれたようで固まって寄り添いすやすやと寝ていた。
「まったく…無防備にも程があるぞ」
とりあえず一通り調べてみて、ただ寝ているだけだとわかると、宗介達は荷物を置き、着替える事にした。
「相良君て本当に年齢にそぐわない体つきしてるよね」
「そうか?」
羨ましいよと風間は笑った。
「お。おにぎり発見!焼いて食おうぜ!」
「小さいお鍋に味噌汁入ってるよ〜作って待っててくれたんだね」
いそいそと食事にありつこうとする二人に宗介は咎めるような口調で制止した。
「勝手に食ってはいかん!」
「じゃ相良はいらねぇの?」
空腹でお預けなどまっぴらだと言わんばかりの小野Dに宗介はため息をついた。
「そうではない。作って待っていてくれたのならこちらも起きるのを待つべきだろう」
確かにそれは正論なので二人は顔を合わせため息をついた。
どうやらこの忠実な番犬は飼い主が起きるまで食事をするのを断固阻止するらしい。
二人ではこの番犬に勝てる見込みは無いのでとりあえず焚き火にあたり体を暖めることにした。
「なんかさ…こう見ると皆本当に可愛いよね」
「おー!本当にうちの学校レベル高かったんだよな」
風間と小野Dがちらちらと女子の方を見ながら笑った。
「なんの話だ」
「女子の可愛さレベルだよ〜本当に相良くんそう言う話疎いよね」
「まぁいつも千鳥の側にいるとほかが霞むんじゃねぇの〜?」
「?千鳥がどうかしたのか?」
にやにやしている二人に全く話が読めない宗介。
三人は持参していた飲み物を飲みながらたわいもない話を始めた。