フルメタ

□仰げば尊し
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「ぱぱ」
「どうした?」


愛娘が差し出したのは一枚の写真
まだ俺が…皆がダナンに居た頃の写真だった。

「このおじちゃんだあれ?」

藍奈が指を指したのは

「それ…は…」

白髪長身の男性…

「どおしてぱぱといっしょなの?」

無邪気に笑う藍奈に俺は…

「その人は…パパの…大切な人だ…」

そう言うのが精一杯だった。



[仰げば尊し]



「そーすけ?」

仕事から帰れば部屋には電気がついておらず
子供部屋には藍奈とぶんたが
すやすやと心地良さそうに寝息を立てている。
だが宗介の姿はない。

キッチンには作りかけの料理。
テーブルには一枚の写真。

宗介は家の中にはいないようだった。

かなめはため息をつき、着替えるとベランダに出た。
ベランダには屋根に登る小さな階段がある。

普段は階段は藍奈が登ると危ないのでかかっていない。
それがかかってる…
と言うことは…

「そーすけ、降りてらっしゃい。」
「…かなめおかえり。」

声をかければぴょこりと宗介が顔を覗かせた。

「何してんのよ…」
「いや…大したことじゃない」

ひらりと階段を使わず降りる。

「料理作りかけで放置しておいて大したことじゃないじゃないわよ」
「…すまん」

部屋に戻った二人はキッチンの謎の料理の前に立つ。

「これ何…」
「…ボルシチだ」
「あんたね…これじゃまるでカリーニンさんのボルシチじゃないの…」
「肯定だ」
「…へ?」
「だが違う。彼のは…こんなに美味くなかった」
「これ…美味いの?」
「肯定だ。何故か解らんが美味かった」
半信半疑で暖め直すかなめ
宗介は少しずつ離れていく。
「そーすけ」
「なんだ」
「なんで離れてんの?」
「…」
「あんた…また変なこと考えてるでしょ」
「…」
「終わったの。そーすけ。」
「…あぁ」
「カリーニンさんの事まだ…」
「わからない。だが苦しい。」下を向いてつぶやく宗介。

かなめは火を止めて手招きした

「おいでそーすけ」

近いた宗介を抱き締める。

「ねぇ…お父さんは素敵な人だった?」

背中を撫でながらかなめが聞いた

「?中佐なら君はもうよく知ってるだろう」

宗介が首を傾げた。

「ちがうよ。カリーニンさん」

とたんに宗介の顔が曇る

「…彼は父では」
「お父さんだよ。そーすけの」

真っ直ぐ宗介を見ながらかなめは言う

「しかし」
「だってそっくりだもん。」
「なに?」

かなめはクスクスと笑った。
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