フルメタ

□祭り
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「夕方なのにまだ暑いか〜」

今年は去年よりも暑い気がするわ〜…と
かなめは元気に大合唱している蝉の声を聞きながら
カランと軽快な音をたてて一歩踏み出した。



マンションから一歩出れば室内とは一変して
夏の日差しを全身に浴びる。
かなめは持っていた扇子でパタパタと扇いだ。

浴衣と同じ生地で作られた小さな巾着を揺らしながら
機嫌よく歩くかなめの隣に並び、
頬に十字傷を持つむっつり顔の青年は
前を向いたままいつものように答えた。


「これくらいならば問題ない」

TVのどの番組でも今日は真夏日ですねー
と言っているというのに、
この男は汗も出さずに涼しい顔をして歩いている。

「そりゃあんたの居たアフガンに比べればでしょ」

砂漠地帯に比べたらそりゃまだいいほうだと思うけど…
あたしはそんな熱いとこで暮らしたことねーってのよ。
かなめは一人頭の中で愚痴るとため息をついた。

「と・に・か・く!いくわよ!!」

あーもう!!と頭を振って暑い気持ちを追い出す。
浴衣の袖を捲し上げ気合いを入れて歩き出した。

「目指すは全制覇よ!」

宗介は小さくため息をつきながら彼女の横に並んで歩いた。




「お〜賑わってるわね〜」

早速手に入れたかき氷を食べながら嬉しそうに周りを見渡す。

宗介はブルーハワイ・かなめはいちごだ。
途中で食べさせあいっこなんかしたら、恋人同士に見えるのかな?
別にそう見えたら何だって感じなんだけど!
どうせそーすけはそんなの考えもつかないんだろうし…
なんてちょっと考えながら珍しくいつもと違う意味で
そわそわしている宗介を横目で見た。

「千鳥。あれはなんだ」

宗介は子供で賑わっている一角を指した

「あれは型抜きよ。
うまく型が抜けたら商品もらえるの」
「ほぅ。あれは?」
「あれは落書きせんべい。
砂糖水で絵を書いて砂糖をかけて色を付けたりすんの」
「なるほど。」
「あ、おじさんたこ焼き8ツ入りちょうだい」

話しながら歩く二人。
かなめは気になる物は片っ端から食べていく。

「あいよ!お嬢ちゃんべっぴんだな!彼氏におまけで小さいのやるよ」

たこ焼き屋のおっちゃんはかなめに笑いかけると
宗介に兄ちゃん幸せもんだな〜と若いっていいよな〜と笑った。

宗介は否定も肯定もせずちらっとかなめをみたが
かなめは気がつかなかった。

だがたこ焼き屋の粋な計らいに
かなめはまんざらでもなさそうだ。

「ありがと!はいそーすけ。あんたにくれるって」

にこにこと機嫌良さそうにたこ焼きを差し出してくるかなめを見て、
宗介は何となく大丈夫なのだろうと思った。
ほわん…と胸の奥が暖かくなったような気がしたが、
あえて気がつかないふりをした。

「店主。ありがたくいただく。」

にこにこと4ツ入りのたこ焼きを宗介に渡しながら
かなめはやっぱり恋人同士に見えるのかな…と宗介を見た。

そーすけ…否定しなかったな…

たこ焼きを食べながらちらりと覗き見れば、
口いっぱいにたこ焼きをほおばっている宗介の顔が
何となく満足そうでちょっとうれしくなった。

「うまい。」
「そーね」

オマケしてもらえるに越したことはない。とあえて考えないようにしながら先に進む。

「あ!ぼん太くん特大ぬいぐるみ!」

かなめの指した先にはたくさんのゲームや、
おもちゃ、ぬいぐるみにおかしなどが
並べられた屋台だった。

「む。あれは?」
「射的よ射的!あんた得意でしょ!」

かなめは宗介の腕をつかみずんずんと
射的の屋台へと向かっていく。

「しかし君が危ないからと全て置いてきてしまっ」

すぱん!!!

「当たり前でしょ!それに射的にはお店の銃をつかうの!」
「ち…千鳥?いまどこからその武器を」
「うるさい!!細かいことぐだぐだ言ってんじゃないわよ!!
おじさ〜んぼん太くんちゃんと落ちるの〜?

なんかでかいから当たっても落ちないんじゃないー?」

どこからともなく出したハリセンをこれまたどこかにしまったかなめは
射的のおじさんに甘えるように上目使いでそれとなく話しかけた。

「お譲ちゃんかわいいね〜!彼氏に取ってもらうのかい?
ぼん太くんはさすがに落ちないから
ここの的に当てればぼん太くん特大ぬいぐるみ
差し上げちゃうよ〜」

よく見るとぼん太くんの胸元に小さな丸い的が付いて、
そこに当たるとくれるという。
よほど当たらないという自信からかそんな事を言う店主。

「当たったら紙に色がつくようになってるからね、
それでわかるんだ。さ〜どうするかね?」
「なるほど。店主、やるぞ」

宗介はお金を渡すと置いてある銃を取った。

「はいよ!玉は6発、がんばんな兄ちゃん!」

説明を聞いていた宗介は銃を一通り点検し、狙いを定めて一発打ってみた。
しかし球はぼん太君の体にあたったものの的には当たらなかった。

「あーはずれた〜」

残念そうなかなめに次を準備しながら宗介は言った。

「問題ない。」
「問題ないってあんた…外したでしょ!」

もー負けず嫌いなんだから…と
腰に手を当ててため息をつくかなめに
少しむっとした顔で宗介は言った。

「千鳥。これは照準が合わせだ。
一度撃てばどの程度狂っているかがわかる。」

なるほど…そういうことかと、
もう一度構えた宗介にかなめは期待を込めて笑った。

「じゃあ次は?」
「次だけじゃない残り全て確実に当たる」

宗介はいつものむっつり顔で答え、引き金を引いた。
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