文
□天気
1ページ/3ページ
――てんき――
ゆうべは雨だった。ひどい雨だった。
春になりきれていないこの季節
冷たい雨だった。
今は青一面が広がっている高い空。
「あーあ、お仕事終わっても憂鬱になっちまう」
崩れ落ちそうな薮椿の花もいよいよ今日明日で終わるだろう。日を浴びて照る葉だけは眩しい。
常人ならば視界の効かない夜の雨も
“出来のよい”忍には意味はなかった。
まあ、生臭さは落ちたかな。
常より手はずが悪かった。雨のせいになどできはしない。
「佐助ー!帰ったのか!」
ぎょっとした。
なんだって街道に自分の主がいるのだ。城下ならばまだしも、なんたる無防備。
主の後ろに控える男が、主お声が、と控えめにたしなめる。仕事に向かう前に警護を命じておいた者だ。
「旦那…なんでこんなとこに」
今佐助は無宿者とも旅の物売りともつかない姿をしている。あれほどの仕事をした後、忍が堂々と街道から帰るとは誰も思うまい。
「おぬしと連絡をとっていた忍隊の者が」
瞬間、細まった佐助の目が後ろの男、才蔵を射抜く。
…わざと部下に漏らさせたな…。
.