□miss you
2ページ/6ページ



 ぼくは寒さを紛らわせるように、縫いぐるみを抱き締めたまま立てた膝を抱えた。
 クマみたいな人形の顔に顎を載せ、目を閉じる。


 途端、冴える聴覚。


 耳の奥で微かにキィィ……ン…と、耳鳴りがして。



 静けさに耐え切れず、ぼくはヘッドホンに手を伸ばした。




「………」




 携帯を操作し、音楽を再生させる。
 そうすれば静寂に支配されていた世界に音が溢れ出し、
 ぼくはその音に聴き入るように、再び瞼を閉ざした。




「…………」




 頭に響く音色。

 静寂は聞こえない。


 ………でも。




 一瞬は満足したけれど、やっぱり満足できずに瞼を開く。



 ……だって、寒い。



 さっきまで雨が降っていた所為で窓から流れてくる風は冷たい。
 でも体を動かすのは億劫で、結局ぼくは蹲ったまま横になった。



 寒い。

 そう考え膝を寄せた時、器用にぼくの部屋の扉を開けて入ってきた黒猫。
 しなやかに揺れる尻尾を見詰めていたら、テッドはひらりとぼくのベッドに飛び乗ってきて。

 彼の金の硝子玉にぼくが映る。

 にゃあと、まるでぼくの名前を呼ぶみたいに鳴くのを聞いて、ぼくは縫いぐるみと一緒にその小さな体を抱き締めた。



 …うん。
 軟らかく、サラサラの毛並みが頬に当たって気持ちいい。
 髭がちょっと痒いけど、まぁ気にしない。

 さっきよりは幾分かあったかくなったし。



 ………とは言っても、やっぱり寒い。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ