Another Novel

□rain
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 雨が、嫌い。


 雨が、怖い。



 あの音は、雨という悪魔が忍び寄ってくる足音。



 ひたひた、ひたひたと。

 闇を引き連れ、誰かをその闇の中へと誘い込む為に。


 雨は、やってくる。



 だから、雨の日は何処か

 周りも、ボク自身も、


 陰鬱なんだ…。





 rain





「……………ん?」




 ガチャリとドアを開ければ、ワンテンポ遅れて銀糸が揺れた。

 そうしてボクを振り返ったのは、人形みたいに綺麗すぎるユーリ。
 彼は一瞬キョトンとして、だけど急に紅い双眸を少しだけ大きくさせた。



 ………なに。来たのが碧い髪のあいつじゃなくてショックだったっていうの?

 なんだか…………ムカツク。



 そんなボクの気持ちも知らずにユーリはソファー越しにボクを見詰め、小首を傾げた。




「どうしたのだ?お前……そんなびしょ濡れで…」

「別に……ただ、雨に濡れただけだよ」

「………傘を、差さなかったのか?」

「なんだか面倒だったから」




 そう答えれば、ユーリは一瞬視線を天井に向け、それからボクに背を向ける。

 だけど、すぐにこちらへ向き直した。




「こっちにおいで、ラスネール」

「……………………君も、何度言ったら解るの?ボクは“スマイル”だってば」




 そうだよ。ボクは“ラスネール”じゃあない。

 それは周りが勝手にそう呼んでいるだけであって、違う。
 ボクはスマイルだ。

 ボクが本当の、“スマイル”なんだよ。



 眉間に皺を寄せながらユーリを見詰めていたら、彼はくすりと苦笑を漏らした。



 …………あ。なんか、今の………好きかも?




「すまなかった。とにかくその雨水を拭ってしまおう。ちょうどここに、アッシュが仕舞い忘れたタオルがあるのだよ」




 だから、こちらへおいで?



 そう言って、彼は優しく微笑んだ。

 その表情に何故だか安らぎを覚え、ボクは知らずユーリの方へ歩み寄っていて。


 だけど、ユーリと向き合った処で歩みを止めた。




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