Another Novel

□pluie 〜fantoccini〜 4
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 当たり所が悪かったのか、殴られた箇所がひどく痛む。
 そこを押さえながら、半ば涙目のまま睨むように吸血鬼の顔を見上げる、と、



 そこには、意外な表情があった。





「…………」

「………………なに」





 オレの視線が気になったのか、奴は眉を寄せた。
 その顔は、無表情。

 普段の奴と、何ら変化はなかった。




「………いや、なんでも」




 ……気の所為か、奴の顔が少し、穏やかに見えた気がしたんだが………。




(んなの有り得ねぇか)




 だって、こいつは感情が欠落している(らしい)んだから…………。






「…………できた…」

「あ?」





 すると、ふと吸血鬼が呟いた。

 オレは、つられるように奴が手を退けた所を見ると、そこには布が巻かれたオレの腕があった。
 その布は、吸血鬼が着ている着物と同じ柄で。

 よく見れば、奴の着物の裾が片方裂かれていた。




「……お前、これ………」




 察しが付かないほど、オレだって馬鹿じゃない。


 ここには、オレが無意識のうちに掻き毟った痕があったはずだ。

 だのに、それが今は布の下。



 なんで……?

 なんでお前が?



 それは口には出さず、けれど答えを知りたくて、奴の顔を見上げれば。



 そこにあったのは、相変わらずの無表情。

 けれど、長い前髪に隠された瑠璃色の双眸が、蝋燭の灯の所為で微かに揺れている……気が、した。




「……勘違い…するな。ただ、私たちは…………その臭いが嫌い……だからだ」




 私たち、というのは、たぶんここに住まう銀の吸血鬼の分身たち全員のことだろう。


 それが、これの理由。

 つまりは、血の臭いを嗅ぎたくないから布で塞いだ、と。




 けれど…………。




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