Another Novel

□appel
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 メルヘン王国北部の最奥。 誰も彼もがその存在を忘れ去ってしまった、そんな土地。

 満月の月影が唯一の光源であるその土地は今、静寂に支配されてしまっている。

 そこに広がる妙な静けさが、畏怖の情を醸し出させていた。



 だが、その静寂を打ち破るかのように一陣の風が森の中を吹抜けていった。



 不意に、満月の中にシルエットが映る。
 蝙蝠に似たそれは満月の中で静かに羽撃きを続け、浮遊したままその場に静止をした。

 蝙蝠羽が巻き起こす微風によって靡く漆黒の髪が、赤い月影を浴びて微かに赤く色付いている。

 その髪を鬱陶しそうに押え付け、眼下を見下ろすは瑠璃色の翼を持つ吸血鬼。
 容姿は孤城に住む銀の吸血鬼――ユーリそっくりなのだが、髪と瞳、翼の色が異なり、雰囲気も何処となくその人物とは異なっていた。




「…………」




 彼はほんの一瞬だけ眉根を寄せ、辺りを見回す。
 だがそれも一瞬で、彼はすぐにある方向を見詰めた。

 その方向には在るのは、深い森に守られるようにして聳え建つ孤城。


 次の瞬間彼は、大きく翼を羽撃かせたかと思うと、吸い込まれるようにその孤城へと消えていった。




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