Another Novel

□claustration
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 自分が周りのヒトにして見せているのと同じそれ。

 自分の持つ力と全く同じ力。


 これは、透明人間の…力だ。




 何故?


 もしかしたら、自分の他に同じ種族の者が未だ残っていたのかもしれない。




 けれど…この感じは何だ?






 …嫌な、予感がする――…






 混乱しきってしまってままでいると、その口がゆっくりとこちらに近付いてきた。

 そして、それに連れ、何もない空間から浮かび上がっていく肢体。








「――――っ!!」








 目前の現実に愕然としてしまった。

 これ以上はないというぐらい見開かれた隻眼が一点を見据えたまま固まる。






「おはよう、スマイル。
 ボクは…………“スマイル”だよ」






 少しだけ自分より仇気ない、自分と同じ顔が、にやりと笑った。



 そう…何もない空間から姿を現した奴は、自分と正に同じ顔をしていた。

 同じように態と血色悪く染めた顔。
 そして怪我をしていないのに、顔や体にも巻き付けた包帯。

 違いと言えば、緑の髪色と晒された左眼…。



 見詰める先で、彼の両目が細められた。




「この眼…気になる?」




 楽しそうに笑みながら、自らを“スマイル”だと名乗る彼は、自分の左眼を指差し言った。


 彼の左眼は、右眼と同じくして赤い。
 鮮血を思わせるそれが、中途半端に顔の左半分を覆った包帯の下から覗いている。




 この…左眼も、ちがう。




 言葉を失っていると、彼はぼくの顔に顔を近付けてきた。

 無意識の内に、距離を置こうしてと顎を引いてしまう。




「そっか。お前の眼は、呪われているものねぇ…」




 にたりと笑いながら呟かれた台詞に眉根が寄った。

 それを見た彼は再びくすりと笑う。
 愉しそうに。




「怒った?…怒った顔してる…」




 自分と同じ声が部屋に響く。

 その谺が自分の発したものだと錯覚してしまう程に同じそれ。



 それが、呪いと、呟く。



 ゆっくりと、彼の手が左眼を覆う包帯に触れてきた。

 撫でるように、指先で左眼の辺りをなぞる。




「…触るなよ」




 睨み付けても彼は構わず続けた。
 触れるだけだった手は包帯の止め具を外し、巻いていた包帯も強引に外しに掛かった。




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