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不規則に揺れる、箱。
私に言わせてみればこんなもの只の箱だ。
しかしそれが一度に数多の人を乗せ、しかも有得ない速度で敷かれたレールに従って走っている。
そんな箱…もとい電車の中に今私もいる。
不規則な震動が身を揺らせるが、それが何となく不快ではないから不思議だ。
窓の外に眼を向ければ近いものは速く、遠いものは遅く後方へと流れていくのが見える。
そんな当たり前の光景が永遠と目の前で繰り返させている。
暫く見詰めていたら眼が回ったらしく、酔いそうになってしまった。
気分を落ち着かせようとゆっくり窓の外から視線をずらす。
相も変わらずこの箱は不規則に揺れながら、目的地へと進んでいた。
何故、私が今この電車に乗っているのかというと、今回は珍しく、都心から離れた場所で新曲のプロモを撮影することになったからだ。
今回はグループではなくソロである自分をプロデュースすることになった神――MZDが、今日になって突如郊外で撮影をしたいと言い出したのだ。
彼曰く、撮影に最適な場所があるのだという。
…だから。
折角だから。
いつもは当たり前のようにいる彼等がいないから。
少し、冒険がしてみたい。
そう、子供のように思ってしまったのだ。
それが、今電車に乗っている事の理由。
反対するスタッフの意見を押し切って乗ってみた電車という、箱。
その箱に1人揺られ、私はMZDの提案した目的地に向けて移動中なのである。
だが、変装はある程度しているものの、見目麗しい吸血鬼であるユーリが目立たぬことなどない。
そのことを肝心な本人は全く気付いていない。
近くを通る人や近くに座る人からの熱い眼差しなどに全く気付いていない彼はやはり、メンバーの2人が心配する程にかなりの天然なようだ。