□entreaty 2
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「――…はぁっ」





 何もしていない筈なのに、体中が重い。


 覚束ない足取りでベッドへと俯せで倒れ込むと、舞い上がった空気と一緒に舞い上がり、そしてゆっくりと元に戻っていった。



 今、この部屋はカーテンを閉ざしている為、
 辺りを照らす明かりは乏しい。

 その暗さに今の自分の気持ちが拍車を掛けさせ、余計に部屋全体を暗くさせている気がした。



 薄く開いていた隻眼を、閉ざす。



 そうすれば、部屋よりも圧倒的に暗い闇が広がる。




 そんな闇の世界にふと姿を現すのは、先程の銀の吸血鬼の姿。

 当たり前だが、確実に彼は機嫌を損ねていた。
 分かってはいたが、どうしたらいいのか分からなかった。


 今まで、こんなことはなかった。


 たかが夢の所為でこんなにも不安定になって、いつもの自分が保てなくなるなど。

 こんなことははじめてだった。


 だが、されど夢と言うことなのだろうか。



 理由も何も話さず、一方的に距離をとられ会話もない。
 話し掛けてもあからさまに無視をし、視線も合わせようとしない。

 そんなことをされたら誰でも不快に思うだろう。


 だから、彼が怒ることは当然なのだ。




 シーツを巻き込みながら腕を組み、その上に顔を横にして載せる。


 虚ろになってきた頭の中で、何度も此処にいない彼にゴメンネと呟く。



 この言葉が届いていないと解っていても、呟かずにはいられない。



 もう一度。

 今度はさっきよりも強く気持ちを込めて、ゴメンネと心の中で呟いた。



 一層暗さが増し、虚ろさも増した世界が感覚と体をも包み込む。

 体は石の様に重たく、逃げることは叶わない。
 だが、特に逃げ出したいという気持ちは起きない。

 されるがままに、この暗く虚ろな世界に体を、総てを委ねる。




 何も考える気がしない。



 自分が先程まで何を考えていたのかさえも分からない。


 ただただ、この暗く虚ろな世界に身を委ね、漂う。




 ふと、その世界に小さな光を見つけた。





 あれは―――…何?





 光が段々と此方に近付き、大きさを増す。


 その中に、人の形をしたシルエットを見つけた。



 自分はその光の眩しさに目を眩まし、両腕を顔の前で交差させ少しでも光を和らげようとしている。
 視線は光に向けたままで。


 シルエットがはっきりと姿を見せる。




 あれは…ユーリ?




 淡い光の中に、佇む彼。

 表情は相変わらず無表情だ。




 何、やってるの?そんなトコロで…。




 そっと囁けば、彼は微笑んだ。

 そして、ぼくに向かって手を差し伸べてきた。



 彼の微笑につられ、自分にも自然と微笑が零れる。





 機嫌…イイね。

 何かイイコトでもあったのかい?




 今度はそう囁けば、彼は何故か苦笑った。


 その様子にぼくは首を傾げた。




 まァ、どうでもイイや。
 君が、笑ってくれるのなら…。




 ゆっくりと、彼に向かって左手を差し伸べる。





 ネェ、聴かせてくれないかい?…ユーリ…。





 あと、数cmで彼の手に触れられる。



 その時。





 ―――――っ!!?





 一瞬フェードアウトした世界は、一転して違う場面を映し出した。


 それは、見覚えのある部屋。

 そして風景。



 その中で死んだ様に眠りに就いているのは……






「―――ぅわ!!」





 そこで覚醒した。


 腕立てのように体を起こした視界で、自分の髪がぱさと不意に、下へと流れていった。



 息が、荒い。

 心臓の音がやけに煩く耳につく。





 ――今のは…夢。





 どうやら自分でも気付かない内にまた、眠ってしまったらしかった。


 片手だけベッドから離し、体を反転させベッドに座り直す。


 深く、深く溜息を吐く。





「何でこう………変な夢ばっか見ちゃうんだろう…」





 前髪を掻き上げながら愚痴の様に溢す。




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