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□春の香り
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「ユーリ、起きて下さいっ」
まだ眠っていたいのに、突然肩を揺さ振られた。
その急な仕打ちに目を覚まし、寝ぼけ眼を擦れば、尚も私に何か言ってくる声。
正直言って………、
「五月蝿い」
「ギャイン!!」
作った握り拳をそのまま天井に向ければ、それは何かにヒットした。
ゴンッ、という音と共に、ガチッという音が同じ所から聞こえた。
「アーララ、痛そうだネぇ…」
ヒヒッ、なんて独特な笑い声につられ、やっと目を開ければ。
「オハヨ、ユーリ。さっ、お出掛けしようかっ☆」
体を起こした私は、ドアに凭れこちらへにこやかな笑みを向けるスマイルを間抜けな顔をして見詰めてしまった。
その間、ベッドの脇でアッシュは顎だか口を押さえ悶絶しながら蹲っていた。
『春の香り』
風が吹く度に、鼻腔を擽っていく優しい香り。
穏やかな陽気が纏うその香りは、私に安らぎを与えてくれた。
何気なく空を仰げばそこには清々しいほどの青空。
春の薄い青をしたそのキャンバスに白い雲が散っている。
そのコントラストだけでも充分だというのに、そこには薄紅色も存在していて。
それは風が吹けば、まだ咲き誇り出したばかりの枝を揺らすだけで、薄紅色の花びらを散らしてはくれなかった。
無意識のうちに手を伸ばしかけて、その手を引っ込めた。