The Mortal Sin

□The Mortal Sin 16
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「…おとーさん」




 不意に、小さな声で呼ばれた。

 肘を突き、手の甲に額を載せていたが、声のした方を振り返れば、其処にいたのは眠たそうに目を擦る我が子。
 オレと目が合うと、少しふらつきながらもオレの元へやってきた。




「頭、イタイ?」




 人間の子供で言えば、まだ10歳ほどの彼。
 まだまだ甘えたい盛りか。

 オレは自然と笑みを浮かべ、彼を膝の上へそっと抱き上げた。




「痛くないよ…」

「うそ。ここ、シワよってた」




 そう言って、オレの眉間に小さな指を這わせ、心配そうに見上げてくる。

 それでもオレが「そんなことはない」と言えば、彼はオレの眉間をぐいぐい押してきた。

 少し、痛い…。




「こらこら…押しすぎだ…」

「ヒヒッ、イヒヒヒッ」




 痛がるオレを、カラカラと笑い飛ばすこの子。
 無邪気に笑い、オレの胸の奥深くにあった蟠りをいとも容易く何処かへ消し去ってしまう。

 途端に、あの人とは違う愛しさが胸の中に溢れ、まだ笑っていた彼をオレは確と抱き締めた。




「お前に、これをあげるよ」




 そう囁いて、オレの左耳に付けていたピアスを外す。

 それはオレが作った、たった1つのピアス。
 金のそれには心を込めた装飾が彫られていて、それは昔から一族の間に伝わる、一族しか知らない伝統的な模様だ。

 そのピアスを小さな手に握らせ、額に唇をそっと落としてやる。




「大切だから。オレにとっては、お前が大切だから。だから、どんなに離れていても、お前と共に在るように。
 何があっても、お前を離さないから…」

「…おかーさんは?」

「あぁ勿論、お母さんも、大切だよ」




 そう呟いた時、ふと背中に感じた優しい温もり。

 肩越しに振り返れば、そこには愛しい愛しい彼女の姿。
 オレと目が合うと、彼女はにこりと優しく微笑んだ。




 そう……大切なんだ。


 オレの、大切な家族。

 失いたくない、大切な居場所。



 何が不満だと言うのだろう。

 こんなにも心温かく、総てを満たされているというのに。






 オレは、馬鹿だな…。






 閉ざした瞼の裏に、不意に浮かんだあの人の顔。

 それを忘れようと、もう眠りに就いてしまった我が子をひしと抱き締め、
 オレを優しく抱き締めてくれる彼女と一緒に微笑んだ。












The Mortal Sin 16







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