The Mortal Sin
□The Mortal Sin 7
1ページ/11ページ
『――オーギュスト』
誰かが、名前を呼んだ。
名前を呼ばれた黒髪の彼は、薔薇の香りが流れてきた方へ視線を向ける。
折角ぼくにいろんな話を聞かせてくれていたのに……、
彼は違う方を向いてしまった。
『アル?どうしたんですか?こんな処まで…』
『………』
振り向いた彼の肩越しに見遣ったそこには、黒いマントに身を包んだ、赤い髪の綺麗な人が立っていた。
………女の人…?
あ、でも胸がないや。
マントを外し、微かに俯いたその人はなんだか少しだけ悲しそう。
ううん……なんだか苦しそうだった。
もう一度「アル?」と声をかけると、赤い髪の人はゆっくりと顔を上げ。
『―――…相談したいことがあるんだ』
そう呟いた声は、微かに震えていた。
ぼくが小首を傾げていると、隣にいた彼はぼくの頭を一度撫でてから、赤い髪の人の元へ行ってしまった。
……行っちゃうの?
いろんな話をしてくれていた途中なのに。
……ぼく、まだぜんぶ聞けていないよ?
森の中に住んでいる狼男たちの話や、地球という処の何処か森の奥深くに住んでいる魔女たちの話に、
……………それから、ここからずっと北の方にある城に住んでいる吸血鬼の一族の話も。
まだ、ぜんぶ途中だよ…?
ねぇ……行っちゃヤだよ……………。
置いて行かないでよ……。
『…おとーさん……』
The Mortal Sin 7
「久し振りだな……」
そう言って、ぼくを見た黒髪の男。
そいつはぼくに似ていて……………いや、ぼくに似ているんじゃなくて、
(……思い出した)
ぼくが、彼に似ているんだ。
だって、彼はぼくの………
(父親だ…………)