The Mortal Sin
□The Mortal Sin 5
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崩れ落ちた、華奢すぎるユーリの体を抱き締めながら、ぼくはただ、激しい痛みを頭と左眼に感じていた。
まるで、心臓がそこにあるかのように痛む箇所では、ドクンドクンと血液が脈打ち、且つ痛みを伴っている。
そして、
幼い頃に、ユーリが出逢ったという男………透明人間の名が、何故だか頭から離れない。
(……オーギュスト…)
その名を頭に思い浮かべた途端、左眼に更に激しい痛みを覚えた。
(…気持ちが、悪い……)
ユーリを強く抱き締め、痛みと気分を紛らわせるが、何故か頭の中には1つの名が浮かんだまま消えてはくれない。
聞き覚えのあるような、
けれど、記憶にないその名前。
いや……。
少しだけ、知っている………気がする。
もう、遥か昔となった記憶の中、
1番に消し去りたかったその記憶の中で、
今まで無理矢理に鍵を掛けて、誰にも知られないよう奥底に仕舞い込んでいたその記憶の中で、
黒髪の誰かがぼくの前でしゃがみ、優しくぼくに笑いかけている。
その誰かを、あの名で違う誰かが優しく呼んでいて。
(だ………れ…………?)
今はただ、水中で目を開けたように歪んでいく視界の中で、
数時間前までここにいた男の姿が浮かび、それが、微かな記憶の中の誰かと重なって見えた…………………………、
気がした。
The Mortal Sin 5